2050年の脱炭素社会に向けたエネルギー源として、「核融合」が世界の注目を集めている。国際的な研究開発プロジェクトとしては、米国や欧州、日本などの7極が「ITER計画」を打ち立て、07年にフランスで実験炉の建設を開始。現在も建設は続き、25年の運転開始を目指している。
一方で、核融合炉の工学技術などが発展してきたことを背景に、近年は民間から早期実現に向けて実証炉の建設に乗り出すスタートアップも、米国や欧州を中心に増えてきた。それらの企業にはすでに数百から数千億円規模の資金が流入し、核融合市場は拡大の一途をたどっている。
そうしたなか、19年10月に日本発の核融合スタートアップとして設立されたのが、京都フュージョニアリングだ。設立から3年余りとまだ間もないが、これまでに英国の原子力公社UK Atomic Energy Authority(UKAEA)が主導する核融合プロジェクトから受注を勝ち取るなど、すでに世界でも存在感を示している。
核融合反応は、海水から得られる重水素と三重水素を核融合炉に入れ、真空状態で太陽の10倍の温度である1~1.5億℃に加熱することで起こす。炉内では、水素同士が激しく動き回るプラズマ状態となって衝突し、エネルギーの源となる中性子を放出。これを炉の内側に敷き詰めた「ブランケット」という装置が受け止め、熱として取り出すことで、発電につなげる。
核融合スタートアップは、核融合反応を起こす炉そのものの技術開発に力を入れているところがほとんどだ。それに対し、京都フュージョニアリングの主力製品はブランケットなどの数十種類の周辺装置。
「世界的に見ても競合がほぼいないユニークなポジションを築いている」と代表取締役社長の長尾昂は自信を見せる。
京都フュージョニアリングは、京都大学エネルギー理工学研究所の名誉教授で、これまで約40年にわたって核融合の研究に携わってきた技術畑の小西哲之らと、戦略コンサルやエネルギースタートアップなどを経験してきたビジネス畑の長尾が共同で創業。
京都大学のファンドがスタートアップの設立支援のために人のマッチングを目的として開催した場で、エネルギー業界のバックグラウンドをもち、グローバル展開や大きな発電源にかかわるビジネスに興味のあった長尾が、小西のプレゼンテーションを聞いて声をかけた。
小西が得意とする核融合炉の周辺装置をビジネス化するには、経営スキルとある程度の工学的な技術理解をもち合わせた人材が必要だったが、長尾が機械系の大学院を出ていたことも後押しとなった。
もともと日本は、半導体領域であれば半導体そのものよりも半導体製造装置に強みをもつなど、装置の製造技術に長けた国。核融合炉の周辺装置という領域であれば、日本の産業として大きなポテンシャルが見込めるのではないかという思いも、創業の背景にある。
また、日本のエネルギー産業という面でも、海水から燃料が得られる核融合の技術が発展すれば、化石燃料のように海外からの輸入に頼ることなく、自国内で賄えるという大きなメリットがある。長尾は、「核融合の産業が拡大すればするほど、我々のビジネスのサイズはどんどん大きくなっていく。核融合炉の開発と並走するポジションで、日本ならではの強みが生かせればと考えています」と期待を寄せる。