「海外企業の日本進出」に市場獲得のヒントはある

井川沙紀 Blue Bottle Coffee Inc.Strategic Brand Advisor/インフロレッセンス 代表

Forbes JAPAN 2023年4月号』では、規模は小さいけれど偉大な企業「スモール・ジャイアンツ」を特集。「スモール・ジャイアンツ」は、Forbes JAPANが2018年から続けてきた名物企画のひとつで、会社の規模は小さくても、世界を変える可能性を秘めた企業をアワードというかたちで発掘し、応援するプロジェクトだ。

ブルーボトルコーヒーの日本進出を牽引した経験を持ち、スモール・ジャイアンツ アワードの審査員を務めた井川沙紀に、日本企業が海外進出する際のポイントについて聞いた。


事業や販路を大きくスケールさせようとするときに大切なのは、決して「本質をブラさないこと」だと、私は考えています。

新規事業を軌道に乗せようとしたり、海外進出を成功させようとしたりするときほど、つい目先の売り上げにとらわれがちなもの。だからこそ、自分たちはいったい何者で、誰に対してどういうサービスを届けたいのかという「軸」を常に意識することが大切です。これはいまから8年前、私が責任者としてブルーボトルコーヒーの日本進出を進めるなかで実感したことでした。

そのときに口を揃えて言われたのは、「ブルーボトルのコーヒーは酸っぱいから日本人の味覚に合わせて焙煎レベルを替えてほしい」というリクエスト。しかし、ファウンダーのジェームス・フリーマンが「それは自分たちのやりたいことではない」と頑として譲らなかった。その本質を守るため、日本上陸をライセンスカンパニーに任せず、自分たちで100%出資した日本法人を設立して進めていったのです。

当時は、自分たちで新しいマーケットをつくりにいく感覚でした。コーヒーはフルーツであり、われわれはそのフルーツのよさを最大限に引き出すための焙煎をしている。人によっては酸味が強いという反応になるかもしれないけれど、それこそが私たちのやりたいことであり、伝えたいことでした。そこを曲げない代わりに、理屈とファクトできちんと「軸」を伝える努力はし続けたわけです。

また、事業が進んでも、自分たちの状況を正確に客観視する力も重要です。会社が大きくなると、自分たちの得意なところや企業としてのメリット、競合はここだなどと思い込みにとらわれてしまうこともあるでしょう。

しかし、実際には顧客のニーズとずれていたり、意外なポイントがお客様に響いたりすることもある。そうした視点をもちつつ、コミュニティに文化として溶け込み、長く愛され続けるためにできることを探すことが、成功への近道ではないかと思います。


いがわ・さき◎Blue Bottle Coffee Inc.Strategic Brand Advisor/インフロレッセンス 代表。2014年、ブルーボトルコーヒーの日本事業発足に伴い、広報・人事マネジャーとして参画。翌年、日本法人の取締役に就任し、日本進出を牽引した。

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