一橋ビジネススクールの楠木建教授が書かれた書評を読んで、本書を手にとったのは半年ほど前のことです。
面白いのは、経営コンサルタントを40年近くもされてきた著者が抱え続けていた、現代の経営コンサルタントへの「疑問」から始まるところ。
著者は、「経営コンサルタントは、競争やビジネスモデルといった概念、フレームワーク、組織論、戦略論といった米国でもてはやされている理屈を小脇に抱え、『競争戦略』を企業経営に浸透させる伝道師のような存在」なのだと書き記し、経営者がコンサルタントを使わなければならないという呪縛を解こうとしています。
私自身、米国でMBAを取得し、経営に関する実践的知識は一通り学んできたつもりです。実際、会社運営においてその知識が役立つことも多くあります。しかし、経営者としては、著者と同様、「競争に勝てなければやる意味がない」という勝ち負け論には疑問を感じています。
私は以前、国内外の証券会社に勤務し、相場の短期的な上げ下げに一喜一憂していました。もうければもうけるほど、自分の収入も右肩上がりに上がりましたが、ある時、自分がいくらもうけたかではなく、お客様が幸せになれるかどうかが大事なことだと気づきました。
「ファイナンシャル・アドバイザーとして、長期的にお客様に寄り添うビジネスを日本で立ち上げたい」「アメリカ人のように、旅行や買い物などを自由に楽しみ、老後を支える投資の文化を根づかせたい」と考え、GAIAを設立。その思いは、17年たったいまもぶれてはいません。
6年前にビジネスモデルを残高連動報酬型に変えた時は2期連続で赤字になるなど、経営が厳しいときもありました。
しかし、既存のお客様が追加の入金をしてくださったり、ほかのお客様をご紹介してくださったりと、お客様が私たちをしっかりと支えてくれました。お客様の幸せの先に利益があり、最初から会社の規模やもうけを追いかけるのはやはり間違いなのだと、あらためて実感しました。
著者は、決して経営コンサルタントを否定しているわけではありません。本書では、「会社は競争に勝つために在るのではなく、世の中に対して、自分の信じる新しい価値を創造するために存在しているのだ」と伝えています。
大事なのは、経営コンサルタントが経営者の思い(何を提供し、何をどう変え、世の中にどう貢献し、どういう顧客をつくり出し、どういう会社になるか)を理解し、なおかつ会社と市場全体を俯瞰してくれるなら、経営者はより早く、的確に決断することができるということです。
もし、会社という迷宮に迷い込んでしまったらぜひ本書を読んでみてください。出口への光が見えてくるはずです。
title/会社という迷宮 経営者の眠れぬ夜のために
author/石井光太郎
data/ダイヤモンド社 1980円/280ページ
なかぎり・ひろき◎1997年に甲南大学卒業後、山一證券に入社。メリルリンチ証券に転職し最年少でシニア・ファイナンシャル・コンサルタントに。その後ブランダイス経営大学院でMBAを取得。2006年にIFA法人GAIAを設立。20年4月からファイナンシャル・アドバイザー協会理事長。
いしい・こうたろう◎1961年、兵庫県生まれ。東京大学経済学部卒業。ボストンコンサルティンググループを経て、86年に経営戦略コンサルティング会社コーポレイトディレクション設立。幅広い業界で活躍する多くの経営者を輩出。現在はCDIヒューマンキャピタルを主宰。