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2023.05.15

土から地域の魅力を発掘 地域ビジネスプロデューサーの視点

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中道:で、論文を書かれた。これは「10年後の日本の広告を考える」と、広告の話ですよね。このテーマに行き着いたのは?

南雲:学生時代の足跡を残すため、みんなが書く卒業論文ではないもので、私らしいものを書こうと思ったんです。社会学を学ぶなかで、人間の消費行動には、長期的なもの、中期的なもの、短期的なものがあることを発見しました。例えばクラシックを聴いている人がCDを買う頻度は1年に1回とか長期的なタームですが、旅先で買い物をする時は短いタームの中で、ものすごい勢いで買い物をしますよね。

当時RFID(電波を用いてICタグのデータを非接触で読み書きするシステム)が出たばかりだったので、それでその人がどの時間軸にいるのか測り、スマホやデジタルサイネージのポップアップで訴求すればいいのではということを論文に書いて賞をもらいました。

中道:それから10年たった今、まさにそれがそのままやられていますね。

南雲:あ! 本当ですね。

中道:大学卒業後は、星野リゾートに入られたわけですね。

南雲:星野リゾートでは広報をやってくれと言われたのですが、広報なんてやったことがないわけです。上司に広報のマニュアル本を読んだ方がいいか相談したら、「読んでもいいけど、読んだらその人と同じやり方になるよ。南雲さんがやりたいようにやりなさい」と言われました。

それで、普通広報はリリースを書いてメディアにお願いに行くのですが、私はリリースを持っていかずに、旅の話や日本人の余暇の過ごし方をテーマに、どうやったら日本人が豊かな生活を送れるのか、星野リゾートがどういうことを考えているのか話していました。さらにどうやったら視聴率が上がるか、購買数が伸びるかということもメディアの人と一緒に考えていました。

中道:当時の星野リゾートは発展途上だっのではないかと思うのですが。

南雲: あのころ星野佳路社長は「日本の観光をヤバくする」とよく言っていました。

中道:「ヤバくする」というだけでキャラクターがありますよね。今までの旅館やホテルとは違うんだ、みたいな。

南雲:星野社長は右脳と左脳のバランスが絶妙ですごいんです。「日本の観光をヤバくする」と情熱的に言う一方で、日本のサービス業の非効率な部分をデータでバーンと出してくるんです。「旅館に来るお客さんって何人いると思う?」と言われて、最初は「はあ? どうやってわかるというの」と。でも、日本の人口や首都圏の人口といったデータから割り出していくと、当たりがつくんです。

そうすると売上100億みたいな途方もない目標ではなく、リーチ可能な目標を立てることができます。そういう右脳と左脳の使い方みたいなことはすごく勉強になりました。
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文=久野照美 編集=鈴木奈央

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