キャリア・教育

2023.05.09 18:15

「天才の魂」の行方

田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

では、その「大いなる存在」とは、何か。
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それは、古来、仏教においては「阿頼耶識」、インド哲学においては「アーカーシャ」と呼ばれてきたものであり、筆者の著書『死は存在しない』では、「ゼロ・ポイント・フィールド」と呼んでいる量子力学的な場であり、それは、人類の過去のすべての知識や叡智、想念や思想、発想や意匠、美感や音感などが記憶されている場に他ならない。

実は、天才と呼ばれる人物の才能は、その肉体の一部である脳細胞の中から生まれてくるのではなく、その人物の意識が、このフィールドに繋がることによって、過去の人類の最高の叡智に触れ、刺激を受け、啓発され、生まれてくるのである。

その意味で、坂本龍一が、「自分は、ドビュッシーの生まれ変わりだ」と述べたことは、真実であろう。彼の意識は、このフィールドを通じて、ドビュッシーの叡智に、美感や音感に触れたのであろう。
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もとより、その叡智に触れた後、そのインスピレーションを、現実の優れた音楽作品にする技量もまた、坂本龍一の天才性に他ならないが、彼の創作活動は、そして、レノンやジョブズの創作活動は、実は、この「大いなる存在」、フィールドと結びついた結果、生まれてきたものに他ならない。

その意味において、坂本龍一の魂と才能は、決して消え去ったわけではない。それは、ただ、「大いなる存在」のもとに帰っていっただけであろう。

されば、いつか、将来、また、「若き天才」と呼ばれる音楽家が現れ、こう語るのだろう。

「自分は、坂本龍一の生まれ変わりだ」と。


田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院名誉教授。シンクタンク・ソフィアバンク代表。世界経済フォーラム(ダボス会議)Global AgendaCouncil元メンバー。全国7700名の経営者やリーダーが集う田坂塾・塾長。著書は『死は存在しない』など100冊余。

文 = 田坂広志

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