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2023.05.12

人口減少の物理的な影響ではなく、「不安」こそが成長を止めてしまう──日本の経済成長を左右する「価値循環」の可能性とは

2022年、日本の出生数は過去最少の79万9728人を記録。「出生数80万人割れ」の衝撃を受け、年頭に岸田政権が「異次元の少子化対策」を掲げるも、その実効性には多くの国民が懐疑的だ。人口減少加速によるさらなる経済停滞への懸念も、社会的に一層高まり始めている。

そうした背景を受けて、デロイト トーマツ グループが掲げた、人口減少を乗り越える「価値循環」という新たな成長戦略に注目が集まっている。

本対談では、新たな成長戦略を提唱するデロイト トーマツ グループ執行役 デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表の松江英夫、同リスクアドバイザリー事業本部マネージングディレクター・勝藤史郎、そして第一生命経済研究所経済調査部の首席エコノミスト・永濱利廣の3名が、日本経済の成長のための新たな視点とマインドの在り方について語り合った。


「失われた30年」で日本企業が成長しなかったわけではない


松江英夫(以下、松江):「失われた30年」が始まる1990年代初頭は、ちょうど私や永濱さんが社会に出て働き始めた時期です。それから一生懸命働いてきましたが、結果的に「失われた」と表現されることには忸怩たる思いがあります。

永濱利廣(以下、永濱):株価だと89年に日経平均が3万8000円をつけて、そこからバブル崩壊が始まりましたね。

勝藤史郎(以下、勝藤):永濱さんは「失われた30年」の理由はどこにあるとお考えですか?

永濱:私はバブル崩壊以降に日本政府が政策対応を誤り、デフレを長期間にわたり放置したことが根源的な理由としてあると思っています。日本の失敗を反面教師として、欧米はリーマンショック以降の対応に成功しました。

勝藤:日本と欧米の違いはどこにあったのでしょうか?

永濱:最たるものは金融政策です。日本の場合、バブル崩壊以降も利上げを続けただけでなく、総量規制を実施しました。日銀が利下げに転じたのはバブル崩壊から1年半以上遅れてからです。米国はサブプライムローン問題で利下げに転じ、リーマンショックが起きた後にゼロ金利政策を敷きました。さらにバーナンキ議長が量的緩和で迅速に対応しました。

実は中国も日本の失敗を反面教師としています。現在の中国は90年代の日本と似たように不動産バブルが崩壊している状況ですが、不動産向け融資は規制しながら金融は緩和しています。

松江:永濱さんは金融だけでなく財政にもフォーカスされていらっしゃり、ご著書では日本と比べて他国は財政出動を積極的に行ってきた結果、成長を持続できたと解説されている点が、とても刺激的な議論に思えました。

デロイトトーマツグループ執行役 デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表・松江英夫

デロイト トーマツ グループ執行役 デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表・松江英夫


永濱
:財政にフォーカスが当たり始めたのは近年です。少し前まで、政府債務残高対GDP比を増やさないのが世界的な常識でした。ただバブルが崩壊して需要が過度に落ち込むと、履歴効果による落ち込みの長期化と供給側の低迷を招きます。民間部門が全くお金を使わなくなり、過剰な貯蓄状況が進む結果、中立金利の水準がマイナスに突っ込み、金融政策だけでは経済を引っ張り上げられなくなる。

そこで米国の元財務長官、ローレンス・サマーズ氏らは長期停滞論という考え方をまとめ、少なくともそういう状況では、金融政策がある程度利くようになるまで財政政策が効果的であるという主張を展開しました。ほかにも高圧経済論などがあり、需要が長期間停滞した時には金融・財政政策で刺激を与えて、労働市場を中心に供給側を強化すべきという主張が説得力を持ち始めた。そうして財政にフォーカスが集まっていたところに起きたのが、コロナショックです。コロナ禍において各国はある程度、財政出動を行いましたが、理論的な裏付けが必要で、関連研究も一気に加速しました。

これまで公的な関与を少なくして、自由な競争環境を提供することにより、民間主導で成長することこそ望ましい経済政策だとされてきました。いまも基本的な考えは変わっていませんが、昨今ではパンデミックや米中対立、ロシアのウクライナ侵攻などを背景とした、目まぐるしい社会経済構造の変化への対応が求められています。また環境や格差の問題など、民間部門に任せるだけでは進まない重要な分野があるという認識も生まれており、複合的な理由から世界の潮流として財政政策による成長戦略という観点が経済政策全般で主流になってきています。

松江:なるほど。私も同じような問題意識を共有している一方で、企業の意思決定や成長戦略などに関わって来た身からすると疑問も残ります。財政・金融などマクロ政策と企業単位のミクロな活動が乖離しており、根っこにある企業や産業の構造そのものが変わらない限り、いくら金融や財政のマクロ経済対策をとっても本質的な成長に転換できないのではないかというものです。つまり、ミクロ経済の課題を解きながら、マクロ政策と連動させるにはどうすればよいか、というのが私の問題意識です。

日本経済は失われた30年によって成長が停滞しましたが、日本企業の個々が成長しなかった訳ではありません。2000年頃から海外に投資し、輸出だけではなくM&Aも積極的に進めた結果、企業価値が上がりグローバル化を果たします。

しかし、日本の経済全体にとっての問題は、国内に投資が回らず「新しい需要」が生まれなかったことです。人口減少だから国内は伸びない、というコンセンサスの下、海外に目を向けた日本企業ですが、足元の国内市場はプレイヤーが多く過剰供給なので売り上げも物価も上がらない、さらに抱える従業員の国内比率はそれなりに高く給料も上がらない、そして投資がないので新しい需要に繋がるイノベーションが生まれない、という負のスパイラルを繰り返しています。また80年代の成功体験を支えてきた終身雇用モデルに縛られ、労働市場も非常に硬直的です。このようなミクロ的な構造課題を解決しながらマクロ経済の成長を考える必要があります。

人口が減少しても「回転と蓄積」によって日本は成長できる


永濱:先日御社が上梓された『価値循環が日本を動かす 人口減少を乗り越える新成長戦略』(日経BP)では、人口減少がこの30年で2回ピークアウトしたことを指摘されていますよね。

松江:はい。90年代には生産人口年齢が、2000年前半には総人口がピークアウトしており、期待成長率はどんどん下がっています。企業は既存のしがらみに加えて、将来への成長期待の低下から投資によって需要を作り出すダイナミズムがますます失われている。つまり、過去から続く供給過剰と人口減少に起因する将来への需要不足との構造的なギャップから抜け出せていないことこそが「失われた30年」の正体ではないか、と私たちは考えています。

そこで私たちは、人口減少のなかでも成長に向かうことができるメカニズムを構築するために、新たな需要創出に繋がる価値循環という新成長戦略を提唱することにしました。

資料提供:デロイト トーマツ グループ

資料提供:デロイト トーマツ グループ


永濱
:全国各地で講演する際、中小企業の経営者の方たちが二言目には「人口減るから」という話をされるので、本書における問題提起はとても説得力があると実感しています。

世界を見渡すと、人口が減っている国は日本だけではありません。経済理論的に供給側から見た経済成長の原動力は、「労働投入」「資本投入」「生産性」の3つ。労働投入だけで考えれば人口減少はマイナス要因ですが、それだけで決まるわけではない。つまり、物理的な人口減少の影響というよりも、人口減少に対する不安から需要がより落ち込んでいるのが日本の状況だと言えそうですね。

突き詰めると、心の問題がある。マインドを変えていくためには何かしらの“処方箋”が必要なのですが、松江さんたちの提言がそのひとつになると期待したいです。ちなみに、需要創出にフォーカスした理由はどこにあるのでしょうか。

勝藤:ありがとうございます。我々が成長の牽引役を需要創出に求めた理由は、供給側視点の議論の成果が必ずしも明確でないとからいう消極的理由とともに、環境変化により現在の日本では将来に対する希望が持てる環境に転換してきたという積極的な理由があります。例えば、メタバースなどデジタル空間の拡充、さらには、コロナ禍によって世界規模で新たな消費形態が誕生しました。

また、生産性など供給側の議論は、生産性向上などの施策の成果を計測しにくいという側面があります。一方、需要側は「人口が減っても消費が倍に増えた」など可視化することが比較的容易です。需要創出は心理的にもポジティブです。

過去を振り返ると、アベノミクスは経済状況を改善しましたが、持続的な成長を遂げるためのベースを築いたというよりも、株価上昇や円安など金融市場の好転に引っ張られて成果が出たという認識です。持続的な成長のためにはファンダメンタルズの強化が必要。ただ現状を維持するためにまた財政を出すとなると、民間のモラルは低下してしまう。そのため、私たちは民間のファンダメンタルズから持続的な成長を描くべきだと考えます。

そこで、私たちは民間主導による需要創出を提唱しています。人口減少のなかでデジタル化が進む時代は、民間を活用するスペースが増えるからです。財政出動はあくまで需給ギャップを埋めるためのものという認識です。

デロイト トーマツ グループ リスクアドバイザリー事業本部 マネージングディレクター・勝藤史郎

デロイト トーマツ グループ リスクアドバイザリー事業本部 マネージングディレクター・勝藤史郎


永濱
:メタバースの話題は興味深いですね。政府は環境やデジタルに対する施策は講じていますが、仮想空間のミクロな活用まではキャッチアップできていません。そこを民間主導で活性化させるというのは共感できる視点です。

なお、御社が提唱されている価値循環のイメージはどのようなものでしょうか。

松江:価値循環は、ヒト・モノ・データ・カネの4つのリソースを回転させながら、そのノウハウを蓄積させることで付加価値を高めて経済を成長させるコンセプトです。

ここでの付加価値を企業の売上に例にとると分かりやすいです。売上は数量と価格の掛け算ですが、数量は人数と頻度に分解できます。人口が減ると人数は減りますから、売上をアップするにはそれ以外の頻度と価格をどう上げるかカギを握ります。そこで、「回転」によって取引の頻度を高め、さらに経験やノウハウの「蓄積」によって価格を上げる対策がとれば付加価値を高めることはできます。

資料提供:デロイト トーマツ グループ

資料提供:デロイト トーマツ グループ


永濱
:私が回転と蓄積を実践している企業として、思い浮かぶのは日本の某大型テーマパークです。

同テーマパークはインバウンドの新規顧客を取り込む一方、リピーターを数多く抱えています。稼いだ儲けを新しいアトラクションなどに投資して、何度訪れても新たな発見や価値を提供できるようにしている。結果、値上げをしてもしっかりと顧客がついてきています。日本の産業全体がそうなれば、日本経済の成長を実現できるかもしれませんね。

おふたりはどのような産業において、回転や蓄積が可能と見てらっしゃいますか?

松江:例えば、観光産業においても回転と蓄積の考え方は取り入れられると思います。インバウンドで来た観光客にファンになってもらえれば、自国に戻ってもECでモノを購入したり、また来たいと思ってもらえる。つまりインバウンドを起点に、アウトバウンドの需要が生まれます。そうして日本と接点を持つ「グローバル版の関係人口」が増えれば、国内の人口が減ったとしても、需要は新たに生まれていく。まさに観光産業全体を先ほど挙げたテーマパークように展開していく発想です。

同時に、高齢化先進国である日本にはヘルスケア研究にも適しています。ベンチャー企業が研究をベースに回転と蓄積で新たなソリューションを生み出せば、他国に展開していくことができるでしょう。

勝藤:私はWeb3の領域にも勝機があると考えています。日本にはスポーツ、アニメなど、世界から求められる文化資産のストックもたくさんあります。NFTなどでストックを価値化・流通させていけば、世界中からお金を集めて、さらに次のモノをつくるという循環を生み出すことができるはずです。

日本の強みとなる産業でいかに「価値循環」を起こすのか

永濱:コロナ禍や戦争によって浮彫りになったように、経済安全保障的な観点でも、国内循環できるモノは国内で生産したほうが良いでしょう。現在、好循環が進んで景気が良い地域がいくつかあり、最たる地域は熊本です。TSMC(台湾積体電路製造)の熊本工場誘致により、人材の流動性が高まり、賃金が上がり、教育にも刺激を与えている。その影響は鹿児島あたりまで波及しています。

日本は有力な外資系企業の対外直接投資が圧倒的に少ないですが、これを誘致するのは民間だけでは難しい。ある程度、官が牽引して進めるべきでしょう。

第一生命経済研究所経済調査部の首席エコノミスト・永濱利廣

第一生命経済研究所経済調査部の首席エコノミスト・永濱利廣


松江
:国内投資の循環はとても大事ですね。一方、さらに投資を呼び込むためにも「付加価値が一番高いモノ・コトを日本に置く」ということも重要だと思います。例えば、建設機械大手や半導体製造の経営者の皆様と話をしていると、ハードウェアとソフトウェア、熟練したヒトのサービスをブラックボックス化して、国内工場や経営拠点に集積していることが強みだと言います。世界にはないコアな付加価値を日本の中に集めることで、世界から投資を集める起点にする。そういう政策を意図的に行っていくことも、価値循環を実現する上で重要になると考えています。

永濱さんはどのような産業で価値循環を起こすことが重要だと考えてらっしゃいますか?

永濱:私は一次産業、二次産業も重要だと考えています。モデルケースはオランダ。国土面積も小さくて人口も少ないですが一次産品の輸出世界第2位です。また森林率が高い日本は林業にもポテンシャルがある。これまでは海外の木材が安かったので太刀打ちできませんでしたが、ウクライナ戦争や世界的な脱炭素化の流れのなかで求められる木材の条件も広がってきています。テクノロジーを通じた革新で現状の課題を解決していければ、林業においても価値循環を実現できるのではいでしょうか。

松江:お話から共通する日本の課題は、強みに集中することかもしれません。オランダは外に売れるモノを選別・集約し、スケールを確保して、スマート化しながら生産性を徹底的に高める戦略で成功しています。日本の場合は農家が分散しており、それぞれこだわりがあるのでスケールが出ない状況です。

これまでは足し算で増えていた世界でしたが、人口が減っていく世界では自前を諦めて他と一緒に組んで新たなことをしかけていく、いわば「脱・自前」のマインドセットが求められるでしょう。自分に閉じず、「選択と連携」で持続的な成長を循環させていくイメージです。

永濱:日本の農産品が海外でなかなか売れない理由は、品質は高いが個別農家がつくっているので、量を確保できず、百貨店など大口に卸すことができないためとされています。耕作放棄地が増え大規模経営ができないせいで、儲けに転嫁できていないのです。農業に限らず、通常は商売敵である企業とどう連携していくか。そんなミクロな意識の転換が日本経済全体の成長を左右する時代となりそうですね。

松江:これから価値循環を作りだすうえで大切なのが、官民が一体となって新しい需要を作り出すスタンスです。従来は市場の外にあった社会課題を解決することは、飽和気味の国内市場で新たなビジネスを生み出す領域となるでしょう。私は、官でも民でもない「新たな公(おおやけ)」という言い方をしますが、共助の領域はこれからもっと重要になるはずです。
さらに大事なのが「時間軸の長さ」。企業は中経の3年、行政は単年度の予算、政治にいたっては選挙のたび、そんな近視眼的に足元のしがらみに囚われて変えられない現状を脱却して、10年単位で先を見据えて人口減少を乗り越えるビジョンを掲げ、官民ともに腰を据えて変革を起こす、そんなダイナニズムこそ成長に向けて問われているのです。

価値循環が日本を動かす 人口減少を乗り越える新成長戦略|市販の書籍|デロイト トーマツ グループ|Deloitt

松江英夫(まつえ・ひでお)◎デロイト トーマツ グループ執行役 Chief Executive Thought Leader(CETL)、デロイト トーマツ インスティチュート(DTI)代表。中央大学ビジネススクール 客員教授、事業構想大学院大学 客員教授、経済同友会 幹事、国際戦略経営研究学会 常任理事も務める。フジテレビ系列 報道番組「Live News α」コメンテーター(金曜日)、経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員。著書に、『「脱・自前」の日本成長戦略』(新潮社)、『両極化時代のデジタル経営—共著:ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社)ほか。

勝藤史郎(かつふじ・しろう)◎デロイト トーマツ グループ リスクアドバイザリー事業本部 マネージングディレクター。2017年より現職にてリスク管理に関するアドバイザリーに従事、マクロ経済、国際金融規制、リスクアペタイト・フレームワーク構築支援等を提供する。2011年から約6年半に亘りメガバンクにて統合リスク管理、2004年から6年間同行ニューヨーク駐在チーフエコノミストとして米国経済調査予測に従事した。著書に「9つのカテゴリーで読み解くグローバル金融規制」[共著](中央経済社)、「非財務リスク管理の実務」[共著](金融財政事情研究会)ほか。

永濱利廣(ながはま・としひろ)◎第一生命経済研究所経済調査部の首席エコノミスト。1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒業後、第一生命保険入社。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了、2016年より現職。あしぎん総合研究所客員研究員、跡見学園女子大学マネジメント学部非常勤講師を兼務。総務省「消費統計研究会」委員、景気循環学会常務理事、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。専門は経済統計、マクロ経済分析。著書に、『給料が上がらないのは、円安のせいですか? 通貨で読み解く経済の仕組み』(PHP研究所)『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか 』(講談社現代新書)ほか。

Promoted by デロイト トーマツ グループ / text by Jonggi Ha / photographs by Shuji Goto / edit by Miki Chigira

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