私はこの“内面を高めてくれる旅”をハイエンドトラベルと呼び、その研究やトレンドを分析すると同時に、鎌倉本拠の「Urban Cabin Institute」で唯一無二の時空間体験を提供している。日本が持つ上質な文化資源の価値を正しく認知させ、国際競争力を高めたいと考えているからだ。
旅は最高の自己投資
さて、ハイエンドトラベルの価値を最も理解しているのは富裕層だ。旅は彼らにとって収穫の多い「自己投資」である。仕事から離れて目に映る景色を変え、心身を休めて鋭気を養う。普段出会うことのない人との出会いや体験から、新たな発想を得る。そのために、彼らは惜しみなく旅に投資する。中でもスケールが大きかったのが、この春来日した米国のとある富豪。家族の祝いごとのために、一族15人ほどを連れた大所帯で訪れ、3週間で2.5億円を使ったという。この旅の実現に向けては、お抱えのトラベルデザイナーと日本の担当者が約一年かけて綿密に計画を練り上げ、全ての行程を半年前に下見。さらに旅程がストレスフリーであるよう、専属カメラマンや鞄持ちなど5、6人が随行していた。
好奇心が旺盛な富裕層が旅に求めるのは、本物かつ特別感のある体験だ。そのために、混雑を避けて有名な神社仏閣や美術館などを特別拝観したり、貸し切ることへの要望が非常に強い。
また、専門家のガイドやレクチャー付きの冒険も好まれる。例えば、南極点に到達し、冒険家に導かれてアイスクライミングをしたり、6000万年前の氷でウイスキーを飲んだり。植物学者の案内でアマゾンを散策しながら、ヨーロッパ全土の植物の種類を超える生態系を目の当たりにするなどの体験だ。
しかし、希少性ばかりが重視されるわけではない。ある米国の富豪は、父親がかつて住んでいた駐屯地を見るために、わざわざ青森を旅程に組み込んでいた。そうしたファミリーストーリーも、旅先に選ぶ動機になる。
さらに富の還元も、彼らを満たす旅の目的の一つだ。広島から平和を訴える若者の活動への寄付、瀬戸内のアート活動の支援など、NPOへの寄付を通じて訪れた地の課題解決に貢献している共栄の事例もある。
こうした特別な経験にもとづくストーリーは、パーティーやカントリークラブ、ビジネスミーティングなどの社交の場で人を惹きつける魅力的なアクセサリーとなる。それが、彼ら自身の価値を高めることにつながっている。