ウクライナ侵攻は、欧州の紛争と言えよう。ウクライナ東部でくすぶり続ける争いは、欧州で起きていることをどことなく象徴している。地表の下には熱が流れている。条件が整えば、大きな山火事を引き起こすこともある。
すでに国際通貨基金(IMF)の生命維持装置につながれているウクライナ経済は荒廃している。同国の経済が紛争で疲弊していることは明らかであり、ロシアも制裁の経済的影響を受けている。だが、紛争による実体経済の最大の影響は欧州全域におよんでいる。
インドや中国といった新興国が欧米の制裁に同調していないこともあり、ロシア経済は驚くほど回復している(ただし、新興5カ国[BRICS]の中で、ロシアはブラジルに次いで過去10年間で最悪の国内総生産[GDP]を記録した)。米ピーターソン国際経済研究所によると、インドと中国への天然資源と原材料の輸出がロシアの収入に占める割合は、これまでの25%から昨年には45%を占めるようになった。ロシアは両国へ割引価格で輸出している。ロシア経済は今年0.7%、来年には1.3%成長すると見込まれている。IMFによると、ロシアの今年の経済成長率は、0.3%減と見積もられているドイツや英国より良好な見通しだという。
一方、ウクライナのGDPは昨年、29.1%落ち込み、今年も3%減少すると予測されているが、紛争が続いていることを考えると、この数字はあまりにも楽観的に思われる。同国の失業率は1月、10.6%に上昇した。物価上昇率は昨年、平均で30%に達したが、今年3月には21%にまで落ち着いた。IMFは来年の予測を出していない。
両国が徹底的に争う中、ロシアは少なくとも今のところ、ウクライナよりうまくやっている。ロシアの経済発展省はIMFより強気だ。同省は先月14日、今年のGDP見通しを0.8%の縮小から1.2%の成長に上方修正したが、他方で来年の見通しを引き下げた。
先月16日に終了した米ワシントンでのIMF年次春季総会では、欧米の景気後退の可能性が出席者の間で話題となっていた。欧州はまだ危機を脱したわけではない。西欧の中核を成す先進国の経済成長率は、0.5%の成長または縮小となり、スタグフレーションの可能性もある。
欧州の製造業をけん引するドイツでは、昨年第4四半期のGDPが前期比で0.4%減少し、今年に入っても足踏み状態にある。フランスのGDPも昨年7月以降、徐々に減少しつつある。英国家統計局によると、現時点で最新の統計が入手可能な月である2月に英国経済はゼロ成長を記録した。
欧州の経済低迷の大部分は、ウクライナ侵攻に起因している。欧州によるロシア産天然資源の禁輸措置によってエネルギー価格は上昇し、消費が制限されることになった。ドイツは残り3基の原子炉を閉鎖しようとしているが、これにより電力価格は一層上昇し、同国の経済競争力は低下しつつある。製造業の多くが従業員を雇い止めにしたり、3交代制のシフトを取りやめたりした。スイスでは、大手銀行のクレディ・スイスが経営危機に陥った。