政治

2023.05.05 17:30

ロシア大統領府へのドローン攻撃、背後にいるのは誰か

1つは、ロシア国内の反プーチン派がモスクワ市内から飛ばしたというものだ。この場合、いくつもあるロシアの防空システムを通過する必要がなく、警戒もほぼ招かないため、ウクライナ国内からの攻撃よりもはるかに容易だ。反プーチン派はこれまでにも列車を爆破するなどの抵抗活動を行ってきた。安価でリスクが少なく、追跡も不可能なドローン攻撃は当然の戦術だ。興味深いことに、ロシア議会は個人によるドローン輸入を禁止する法律を起草中で、これは明らかに今回のような攻撃を恐れているからだ。

民生用ドローンを武器に変えるのにスキルはそれほどいらない。メキシコの麻薬カルテルは数年前からドローン爆弾攻撃を警察や他のカルテルに行っている。今後、ドローンがあちこちで反抗勢力にますます使用されるようになるだろう。

もう1つ、おそらくより説得力のある可能性として、今回の攻撃はウクライナの独立したグループによって行われたというものがある。ウクライナのフィンテック起業家でドローン開発者のウォロディミール・ヤツェンコは、ロシアの戦勝記念日の5月9日にモスクワの赤の広場にドローンを着陸させることができたウクライナのドローンメーカーに50万ドル(約6700万円)の賞金を贈呈すると発表した。ヤツェンコの会社のドローンも参加するが、賞金の対象にはならないという。

ヤツェンコはドローンは爆発物を搭載するのではなく、適切なスローガンを掲示することを提案しているが、防衛側がスローガンを見たとしても集中砲火を浴びることになりそうだ。また、そうしたものはロシア軍にとって大きな屈辱となるだろう。4月24日にモスクワ郊外で発見されたドローンは戦勝記念日の侵入のための練習だと考えられている。

ロシアの防空にとっての真の課題は今後待ち受けている。今年初め、国防省の建物の上などモスクワ周辺の戦術的に重要な場所に防空を導入した。たとえドローンがゼレンスキー大統領の命令によるものでなくても、また武装していなくても、ロシア政府にとって非常に目に見える挑戦となる。1987年にロシアが当時の西ドイツの10代、マティアス・ルストが操縦する小型飛行機のインターセプトに失敗したのは有名な話だ。ルストは飛行機を赤の広場に着陸させた。大統領府へのドローン攻撃の映像は、もしそれが本物であればの話だが、広範囲をカバーする電波妨害装置やその他の新しい装置にもかかわらず、ロシアはまだインターセプトに失敗していることを示唆している。

ロシア当局はモスクワの防衛を向上させると約束している。しかし、モスクワを守るために対空砲や地対空ミサイルを持ってくれば、長距離ドローン攻撃から飛行場や弾薬庫、燃料庫を守るためのものが減ることになる。また、神風ドローン攻撃が毎日ある前線の弱体化にもつながる。

今年の戦勝記念日のイベントはモスクワ以外の地域では中止となった。軍事パレードは5月9日にモスクワで行われ、怪しいドローンによって邪魔されるだろうか。大統領府へのドローン攻撃は多くのロシア人にとって祝うはずだった日を不安に空を眺める日に変えてしまっただろう。誰の犯行であれ、ウクライナにとっては明らかな勝利のようだ。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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