北米

2023.05.05

パイロット・管制官の人員不足が続く米航空業界、減便へ

Getty Images

米国ではパイロットと航空管制官の人数が大幅に不足し、航空便の運航に大きな支障が出ている。この問題は改善努力が実を結ぶ前に悪化し、需要の高まりで航空券が高騰する夏の空の旅にも影響しそうだ。

管制官不足で運航削減

米連邦航空局(FAA)は航空各社に対し、ニューヨークの3空港と首都ワシントンのレーガン・ナショナル空港について、今年5月15日~8月15日の発着枠申請数を減らすよう求めた。

現在の航空管制官の人数は、10年前と比べて10%少ない。人員不足は新型コロナウイルス感染症のパンデミック前から起きていたが、コロナ禍で訓練が中断され、補充要員を雇用できなかったため状況はいっそう悪化した。

欠航が最も多く発生しているのはニューヨークにある3つの空港で、なぜなら特に熟練した管制官がこの空域で必要とされるからだ。ニューヨーク・ターミナルレーダー進入管制(TRACON)の配置人員数は、目標の54%にとどまっている。

米航空各社は新しいパイロット養成プログラムを導入し、より多様な人材を採用することで人員不足に対応しようと必死だ。FAAもキャリア教育に力を入れており、今年採用予定の1500人に加え、来年は1800人の採用を目指している。また、現在ニューアーク空港の管制官が担当している空域のうち、約2.6平方キロ相当を年内にフィラデルフィア空港の管轄下に移す。

ただ、管制官不足は今後も続き、空港は引き続き減便を余儀なくされるだろう。

パイロット不足の「津波」を米議会に報告

米地域航空協会(RAA)は4月末、航空業界がパイロット不足の「津波」に直面していると米議会に報告した。今後15年間で米国の現役パイロットの半数以上が65歳の定年を迎えるが、退職による不足を補うのに十分な人員は養成できていない。

問題はすでに顕在化している。パイロット不足のため、米地方航空会社の多くは待機状態の旅客機を抱え、パンデミック前のサービス水準を回復できていない。コロナ禍明けの「リベンジ旅行」をしたい旅行客の膨大な需要に対して、空席が圧倒的に少ない理由の1つだ。

RAAのフェイ・マラーキー・ブラック会長兼CEOは米下院運輸経済基盤委員会で、全米42州で航空サービスがパンデミック前よりも縮小したと説明。136空港で運航数が少なくとも25%減少したほか、大きなハブ空港周辺の小都市にある11空港への旅客便はやむなく乗り入れ中止になったと述べた。

パイロット不足の原因はいくつかあるが、第一にパイロットの養成訓練を受けるのに多額の費用がかかる問題がある。学位取得費用に加えて20万ドル(約2700万円)以上が必要だが、ローンを組んでまで資金を捻出しようという人は少ない。パイロットは医師や弁護士と異なり、大学院支援プログラムによる追加融資の対象外なのだ。

CNNによると、欧州や日本では長距離移動の際に航空便に代わる道路や鉄道といったインフラが整っているため、人員不足の実感は米国ほど深刻ではない可能性があるという。

また、欧州では政府が旅行業界の脱炭素化目標の達成を強く推進しており、その一環として航空機利用から鉄道利用への移行を法的に進めている。鉄道で2.5時間以内に移動可能な代替ルートがある場合、航空便での移動を禁止するフランスの新法はその代表例だ。

forbes.com 原文

編集=荻原藤緒

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