21歳のテシェイラ容疑者は2019年9月に入隊した。マサチューセッツ州オーティス空軍州兵基地に配属され、情報部門の任務に就いていたという。自衛隊の情報部門に勤務した元当局者は「この場合、年齢や階級は関係ない」と語る。今回、流出した情報は国防総省などに毎日報告される書類と様式が似ているという。
元当局者は「デイリー・サマリーと呼ばれるものだろう。役所や部隊の端末から送信先の端末に送られる際、多くの関係者も同時に閲覧できる。とにかく、膨大な量の情報が毎日、飛び交っているので、関係する人間も多かったと思う。テシェイラ容疑者も情報部門にいたから、閲覧自体は簡単だったのだろう」と話す。
ただ、閲覧できても、情報の持ち出しをなぜ簡単にできたのか。今回の事件で流出されたとみられる情報はペーパーに印刷されたもので、ペーパー自体に折り跡がついていた。元当局者は「ペーパーで報告される極秘書類は元々、複写しにくい用紙に特殊なインクで書かれている。このため、複写したら真っ黒になってしまう。今回は、膨大な情報の一部を通常の用紙にプリントアウトしたのではないか」と話す。
日本や韓国では、極秘書類を写メできないよう、携帯電話を持ち込ませなかったり、特定施設ではカメラ機能が使えなくなるアプリケーションを導入させたりしている。テシェイラ容疑者も写メできないので、情報を直接印字した可能性がある。印字が日常化している作業環境にあったのかもしれない。
そうはいっても、情報の世界では、「米国のレギュレーションは世界一厳しい」というのが通り相場になっている。米国大使館に立ち入るとき、携帯電話を取り上げられた経験のある人も多いだろう。
10年ほど前、自衛隊と米軍が情報部門の会議を開いた。会議はオフレコが徹底され、録音や録画は禁止されていた。ところが、自衛隊側の出席者の1人が、会議にICレコーダーがついたペンを持ち込んだ。この出席者は「もし、英語を聞き漏らして、会議の趣旨を正確に理解できなかったら大変だ」と考え、会議後の確認用にするために持ち込んだという。
ところが、会議中、米側出席者が「そのペンはちょっと形が変だ。見せて欲しい」と言い出した。ICレコーダーが備わっていることがわかり、米側は急きょ、会議の中止を宣言したという。
そこまで保秘を徹底する米国だが、情報量が多く、扱う人間も多い。元当局者は「極秘情報をプリントアウトすれば、当然記録が残る。それは何が起きた時の追跡用だから、いちいちそこで警報がなるわけではない」と語る。極秘の仕事があまりに日常化したため、起きてしまった事件と言えるのかもしれない。