ゴール裏のスタンドで声をからしていたサポーターも、ライブ配信されていた動画の視聴者も、そして、ネット上で拡散された問題の場面を見たファンも。すべてが例外なく声をそろえて驚いたはずだ。「えっ、何でゴールが認められないの?」。
日本サッカー界を騒然とさせたシーンは、4月8日のJ2リーグ第8節、町田対秋田の、前半8分に訪れた。自陣でボールを奪った秋田が細かいパス回しから、最後はFW青木翔大がハーフウェイラインをわずかに超えた位置から超ロングシュートを放った。
意表を突いた一撃は美しい放物線を描きながら、町田のゴールへと迫る。ポジションを前に取っていた町田のゴールキーパー、ポープ・ウィリアムが慌てて後方へ戻り、後方へダイブしながら懸命に伸ばした左手でボールに触れた直後だった。
最初は身長192cm体重86kgの巨躯を誇る「ウィリアムの上半身がゴールラインを超えて」自軍のゴール内へ、仰向けの体勢でなだれ落ちた。次にひと呼吸置いて、一度は触れたボールが山なりの弧を描きながら顔のあたりに落ちてきた。
ゴールラインをぎりぎりで越えたかどうかの微妙な一撃ではない。明らかなゴールだったが、審判団からはゴールが宣告されない。しかも、反射的に右手でボールをゴールの外へかき出したウィリアムは、何事もなかったかのようにプレーを続行させた。
それぞれの立場が語る「真実」
直後からネット上で「とんでもない誤審だ」と糾弾された事象を、審判団を統括するJFAの審判委員会がとりあげたのは、試合から18日も経過した4月26日だった。レフェリーブリーフィング。オンライン形式で随時開催され、直近のJリーグにおける判定をさまざまな角度から検証しながら、参加したメディアと共有する機会だ。2023シーズン第3回目の冒頭で、扇谷健司審判委員長が「非常に大事なこと」と自ら切り出した。