そんなギャップを解消しようと、京都で生まれ育った田尻大智は、2018年に着物をアップサイクルするブランド「Relier81」(ルリエ エイトワン)を立ち上げた。京都を中心に続々と誕生するカルチャープレナー(文化起業家)のひとりだ。
これまで着物の帯を再利用した女性向けサンダルを主力商品として、西陣織メーカーやアパレル「UNITED TOKYO」とのコラボレーションで注目されてきた。ことし創業5年を迎え、リブランディングし、商品展開の幅を広げている。
どのようにして、着物からこれまでにない商品を生み出し、発信しているのだろうか。過去の失敗談とともに、文化的なブランドのつくり方を聞いた。
海外に通用する日本文化から「ビジネスのタネ」を
学生時代はバックパッカーだったが、自らの手で事業を開拓していく起業家に強く憧れていた。東南アジアを中心にヨーロッパなどで旅をしていると、出会った人から「日本のどこから来たの?」と聞かれ「京都」と答えると、いつも盛り上がった。他愛もない会話だが、京都に来てみたい人や日本の伝統的な寺や文化に興味を持っている人が、世界中にたくさんいることを実感した。「僕自身は、海外に出かけるまで日本の文化に興味がなく、自分にとって当たり前すぎて、生まれ育った京都の良さに全く気づかなかったんです。ただ漠然と子どもの頃から起業したいという夢があり、京都の文化的な側面に目を向けてビジネスのタネを探し始めました」と振り返る。
大学進学後に「3年後に起業をする」と期限を決めて、社会福祉法人の社員として老人ホームのバックオフィスの仕事をしながら、リサーチを始めた。京都では北野天満宮や東寺などで骨董市がさかんに開かれており、外国人観光客の姿も多く見かけた。
そこで田尻が気になったのは、ある露店で着物の帯が山積みになっている様子。そろりそろりと外国人観光客が現れて買っていくのだ。そこですぐ田尻はスマホを片手にグーグル翻訳で「それを買ってどうするの?」と聞いた。
すると相手は「すごいクールでしょ。部屋に飾るんだよ」「この帯はテーブルセンターにするよ」などと胸を張って答えてくれた。なかには、たくさんの帯を抱えて、家族や友人に配るという人も。きっと帰っても着ることはないのだろう。部屋に飾ってみたり、テーブルに置いてみたり。着物そのものを買う人もおり「YouTubeを見て着てみる」と言っていたが、肌襦袢や長襦袢、半衿、腰紐まで揃っている訳ではないだろう。
そうした観察を続けるうちに「海外に需要はあるのに、用途が難しいので自国に帰っても使えるアイテムがあった方がいいのでは」と考えた。一方で地元産業に目を向けると、西陣織や京友禅などの業界が衰退し、下火になっている。このギャップを埋めたいと考え、この分野で起業することを決めた。