西側諸国は、中央アジアで渦巻いている反ロシア感情のうねりや、同地域の政府が直面している構造的な制約について理解する必要がある。マルガリータ・アッセノワ、アリエル・コーエン(筆者)、ウェスリー・アレクサンダー・ヒルが報告書を発表する場として、大西洋評議会が開催した討論会「カザフスタンと中央アジアはいかにして世界に力を与え、食料を供給できるのか」では、こうした問題や解決策の多くが取り上げられた。
ロシアの支配に対する欧州の抵抗は明白だが、中央アジアの抵抗は必然的に微妙なものとなる。ロシアと中国に容易に侵入可能な国境で挟まれ、地理的に孤立しているこの地域にとって、ロシアとの植民地関係の上に成り立っている経済的な依存は簡単には揺るがないからだ。しかし、中央アジア諸国は現在、ロシアからの難民を受け入れ、欧州連合(EU)との経済協力を拡大し、欧米の対ロシア制裁に足並みをそろえ、自由化することで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に挑戦しているのだ。
最大の問題は、中央アジアと欧州を結ぶ既存のエネルギー輸送設備やパイプラインが、ロシアを通過していることだ。イランやアフガニスタン、中国を経由する代替ルートは、いずれも地政学的に受け入れがたい。残された選択肢は、カスピ海を越え、コーカサス地方を通り、トルコやその先の国々に至る西方への中部回廊だけだ。この回廊とそれに接続するカスピ海横断パイプライン計画は、ようやく実現に向けた政治的意思が向けられるようになった。
カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ初代大統領が多角的な外交戦略で中部回廊を推進して以降、この構想は何十年も棚上げにされてきた。欧州が安価なロシア産天然ガスに意識的に依存してきたため、中部回廊構想は実現しなかったのだ。
だが、今さら中部回廊について過去を振り返ったり、地政学的な思索にふけったりする時間はない。今こそ行動に移すべき時なのだ。中央アジア、特にカザフスタンが中部回廊を利用しながら、西側の投資を通じてエネルギー生産や天然ガス施設、ウラン加工・濃縮施設を増強することができれば、西側は圧倒的な優位性を得ることができるだろう。また、ボーイングやゼネラルモーターズ、シェブロン、イタリア炭化水素公社(ENI)といった欧米企業がすでに行っているように、こうした構想を促す投資家は、発展途上地域と欧州市場をつなぐことで得られる多大な利益を享受することができるだろう。