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2023.04.28

スーダン武力衝突 ダルフールで再び集団虐殺の恐れ

2004年9月7日、スーダン西部ダルフール地方で、アラブ系民兵組織ジャンジャウィードに放火され炎上する村を見つめる黒人系反政府勢力「正義と平等運動(JEM)」の戦闘員(Scott Nelson/Getty Images)

英国議会の議員団は26日、スーダン西部ダルフール地方でのジェノサイド(集団虐殺)から20年後の現状に関する調査報告書を発表した。折しもスーダンでは、事実上の国家元首である統治評議会議長のアブドルファタハ・ブルハン国軍最高司令官が率いる正規軍と、同副議長のムハンマド・ハムダン・ダガロ司令官(通称ヘメディ)率いる準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の衝突が瞬く間に各地に飛び火し、国内情勢が悪化している。

前日の25日、国連のアントニオ・グテレス事務総長は次のように報告した。「これまでに少なくとも450人が殺害された。国連関係者4人も含まれている。負傷者は4000人を超え、何万人もの人々が自宅から避難している。報告されてくるハルツームの状況は壊滅的だ。住民は屋内に閉じ込められ、食料、水、医薬品、燃料の供給が滞る中で恐怖におびえている。世界保健機関(WHO)によると、複数の病院が武装集団に占拠されている。国内各地で武力衝突が起きているとの報告がある。青ナイル州、北コルドファン州、ダルフール全域で住民が逃げまどっている」

ハルツームの情勢不安と暴力は、ダルフールの悲惨な状況に拍車をかけている。ダルフールでは2020年12月から暴力が再燃し、特に民族間衝突が激化している。英議員団が指摘しているように「この地域で、過去の過激な暴力のパターンが繰り返されることが危惧される」状況だ。ダルフールにおける暴力は今年初めに高まり、ハルツームで激しい戦闘が始まった今月に再び増加したとされる。

暴力が多発している現状は、2003年にダルフールで起きたことを思うと非常に憂慮すべきだ。20年前の集団虐殺では30万~40万人が死亡し、250万人以上が避難を強いられ、おびただしい負傷者が出た。2004年9月9日、コリン・パウエル米国務長官(当時)は上院外交委員会で、「一貫した広範な残虐行為のパターン、すなわち(アラブ系民兵組織の)ジャンジャウィードと国軍による非アラブ系住民に対する殺害、レイプ、村の焼き討ち」があったことを示す証拠があると証言。「これは単なる無作為の暴力ではなく、組織的な取り組みだった」と述べた。 

こうした過去の残虐行為は、未来の残虐行為の重要な指標であり、危険因子だ。ジェノサイドから20年が経過し、その「未来」が到来してしまったのかもしれない。過去の残虐行為が罰せられないこともまた、将来の残虐行為の決定的な指標となる。

英議員団は次のように報告している。「新たな暴力の波には、殺人、レイプや性暴力の行使、拷問、非人道的で侮辱的な扱い、子ども兵士の利用、国内避難民キャンプへの襲撃などがある。これらの犯罪は、残虐犯罪の特徴をすべて備えており、残虐行為の拡大を早期に警告する具体的な兆候だ」

リバプール選出の英貴族院(上院)議員アルトン卿は、報告書と最近のスーダン情勢について「現在の状況は、この20年間におけるダルフールでの残虐行為への対応の失敗から生じたものだ。この点は、われわれが厚かましくも、正義の問題をないがしろにしても構わないと考えるたびに思い出すべきことだ」と述べた

ダルフールの集団虐殺から20年たち、あのときの残虐行為が繰り返されるのではないかとの懸念が出ている。国際社会は、ジェノサイドを防止する法的義務と保護責任という政治的コミットメントに従って、これらの報告を真剣に受け止め、行動しなければならない。最近のハルツーム情勢から明らかなように、国際社会の圧力と援助なしにこれらの懸念への対処がなされる可能性は低い。

forbes.com 原文

編集=荻原藤緒

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