モンゴルと言えば、国土の5分の4を占める大草原や「ブフ」と呼ばれるモンゴル相撲を思い浮かべてしまうが、この作品は、そのようなモンゴルに対する従来のイメージを覆す新鮮な作品となっている。
主人公は首都ウランバートルの大学に通う1人の若い女性。自らの現状に対して曖昧模糊とした感情を抱えながら都市生活を送る彼女の日常が、ポップな映像で軽やかに描かれていく。
「バナナの皮」で始まるイントロ
物語は一風変わった始まり方をする。街路に置かれたゴミ箱にバナナの皮が投じられるが、うまく入らず路上に投げ出される。画面には「バナナ」というロシア語の文字。そのバナナの皮を避けるようにしてダウンを着込んだ若者や厚いコートに身を包んだ中年女性が歩いていく。
3人目のスケートボードに乗った女の子が通り過ぎたあとに、ヘッドホンを耳にかけた若い女性が現れる。音楽を聴いていて周囲に気がまわらなかったのか、彼女はバナナの皮を踏みしめてしまい、悲鳴をあげなから転倒する。
この導入部のシーンを観ただけで、作品が描こうとしている現在のモンゴルの街の様子が窺い知れる。なかなか意表をついた映像でもあり、監督であり脚本も手がけたセンゲドルジ・ジャンチブドルジの才気が感じられるシーンだ。
とはいえ、実はこのバナナの皮を踏んだ若い女性は、この映画の主人公ではない。転倒して脚を骨折した彼女は、自分が働いていたアルバイトのピンチヒッターを、同じ大学に通う女性に頼むのだ。そして、そこから映画の本編の物語が始まる。なかなか趣向に富んだイントロだ。
バイトの代役がきっかけに
ウランバートルの大学で原子力工学を学ぶサロール(バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル)は、あまり社交的とは言えないおとなしい性格で、親の意向のままに現在の学科へと進んでいた。そのせいか、講義には身が入らず、その間もノートにせっせとスケッチをしている。そんな彼女が骨折してギブスをはめているクラスメイトから、アルバイトの代役を頼まれる。仕事はアダルトグッズショップでの販売。あまり親しい間柄ではなかったが、口が固そうだからという理由で、話を持ちかけられたのだ。高給で簡単な仕事だと口説かれ、サロールは1カ月間だけ働くことにする。