モンゴルのリアルな姿が映し出される
モンゴルの映画は世界的にはあまり知られていないものも多いが、「セールス・ガールの考現学」は、海外でも高い評価を得ている。第21回ニューヨーク・アジアン・フィルムフェスティバルではグランプリ、フランスの第29回ヴズール国際アジア映画祭では最高賞のゴールデン・シクロ賞に輝いている。また、昨年の第17回大阪アジアン映画祭では、主人公のサロールを演じたバヤルツェツェグ・バヤルジャルガルが、最も輝きを放っている俳優に与えられる薬師真珠賞を受賞している。
確かに彼女の演技は受賞に相応しい。最初は内向的で口数も少ない大学生が、人生の指南役とも言えるカティアのアドバイスで次第に意志のある女性へと変身を遂げていく、その過程を見事に演じている。
オーディションで約300人の応募者から選ばれたというバヤルツェツェグ。この作品が映画デビューとなるが、初主演とは思えないくらい1人の女子大学生の成長する姿をくっきりと演じ切っている。センゲドルジ・ジャンチブドルジ監督も次のように語る。
「俳優を選ぶときに見るのは目です。彼女の目はとても魅力的で、惹きつけられました。サロールと言う役はおとなしく内向的ですが、演じたバヤルツェツェグさんはとても積極的な女性で、自己表現が豊かな女優です。そう言う意味で彼女のキャスティングを決めました」
事実、「セールス・ガールズの考現学」という作品は、彼女の魅力で成り立っていると言っても過言ではない。
作品ではアダルトグッズショップも舞台となっているが、民主主義に移行してからまだ30年ほどしか経っていないモンゴルでは、まだ性に対する表現はタブー視される傾向もあり、オープンに出入りできる場所ではないという。作品ではそのことを払拭するように細心に描いているが、センゲドルジ監督は次のように語る。
「もちろんそういうものを買う自由はありますが、まだ閉鎖的です。アダルトグッズショップという設定を通して表現したかったのは人間の内面的な部分であり、タブー視されている部分や羞恥心を乗り越えて、人間は本来ありのままであるべきだということでした」
モンゴルの首都ウランバートルまでは日本から空路で5時間余り。近隣諸国の1つでありながら、私たちはこの国の現在をあまりにも知らない。「セールス・ガールズの考現学」という作品には、この近くて遠い国のリアルな姿が、1人の若い女性の成長物語を通して見事に映し出されている。
連載 : シネマ未来鏡
過去記事はこちら>>