この店内のシーンは、ことのほかファッショナブルに描かれており、いわゆるいかがわしさはあまりない。来店する客とのやりとりもコミカルに演出されていて、いやらしさも感じられない。さらに、淡々とアダルトグッズを扱うサロール役のバヤルツェツェグ・バヤルジャルガルの無垢な表情が、このシーンをかなり印象深いものにしている。
アダルトグッズショップのオーナーは女性で、彼女は理由があってあまり店には顔を出さない。サロールは店を閉めると、毎回その日の売上を持って、高級フラットで1人暮らしをするオーナーのもとに届けることになっていた。
オーナーの女性はカティア(エンフトール・オィドブジャムツ)といい、かつてはバレリーナとして活躍していた有名人。自由奔放に生きてきた彼女は、最初は見た目が若いサロールを訝しげに見ていたが、咳止めの薬を渡されたことで少しずつ距離が縮まる。一緒に食事を摂るようになり、カティアはサロールに人生のアドバイスをしていく。
「親が死ぬまで言いなり? 子どもは独立するものよ」「眉毛がボーボーで、イカさない。ちゃんと手入れを」「ボンヤリしないで。うつむいて自分の靴を眺めている間に大切な時間は過ぎて行くわ」「赤ちゃんはマネして言葉を覚えるの。SEX も同じ、マネして覚えるの」
これまで艱難辛苦を乗り越えてきたらしいカティアの重みのある言葉に、サロールも心を開いていく。自らの生き方や性について目覚め、考えて行動していくのだった。邦題に付けられた「考現学」というのは、そのあたりを意識してのものかもしれない。
「セールス・ガールの考現学」という作品は、主人公であるサロールのグローイングアップストーリー(成長物語)と言ってもいい。その彼女の物語が細部まで考え抜かれた設定と独特のテンポの映像で興味深く綴られていく。
そして、最初にモンゴルの映画だと認識していなければ、香港かシンガポールが舞台かと思ってしまうほど極めて都会的な作品でもあるのだ。