ところが、イベントへの参加登録の必要性や飛行機に搭乗する際のワクチン接種記録の表示義務といった規制が解除されたことで、アプリの利用者は減少していた。英国では昨年2月、陽性反応後の自己隔離の義務が撤廃された。このほど、国内最後の法的規制が解除されてから1年以上が経過した27日、ついにこのアプリが中止されることとなった。
同アプリは累計で約3100万回ダウンロードされたが、今年に入ってからのダウンロード数は10万回程度にとどまっていた。今後、ワクチンの接種状況を共有する必要がある場合は、より一般的なNHSアプリで行うことになる。同アプリには新型コロナウイルス以外の医療情報も含まれている。
今回中止される新型コロナウイルス専用アプリは初期のバージョンで技術的な問題が発生し、アップルとグーグルが共同で開発することとなり、導入までに数千万ポンド(数十億円)もの費用を要した。これには自由民主党のレイラ・モランをはじめとする一部の議員から批判の声が上がった。
新型コロナウイルスに関する超党派の議員連盟の議長を務める野党議員は先月、英紙ガーディアンにこう語っていた。「政府の混乱した、役立たずの、目を疑うような高価な追跡アプリを振り返ってみると、教訓から学び、必要であれば効果的なアプリを瞬時に運用できるようにすることが不可欠だ。ウイルス対策が二度と後回しにされないようにすることは、現政権と今後の政府の責任だ」
だが、使用率の低下や初期の技術的な問題にもかかわらず、新型コロナウイルス専用アプリは成功したと考える人もいる。
英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに2月に掲載された研究結果では、同アプリの運用開始後1年間で、約100万件の新型コロナウイルス感染、4万4000件の入院、9600件の死亡を防ぐことができたとされた。「NHSの新型コロナウイルスアプリは、利用者が深く関与したことで感染の可能性のある接触者をうまく特定し、相当数の感染や入院、死亡を回避することにつながった」
論文の執筆者らは、利用者の取り込みなどには改善の余地があるとしながらも、このアプリによって「比較的低コストで迅速にできる介入」としてのデジタル式の接触追跡が、新型コロナウイルス感染症のような疾病の感染を減らすための「貴重な公衆衛生対策」になることが示されたと評価した。
英コベントリー大学の研究者らは学術系ニュースサイト「カンバセーション」で、昨年9月に開催された会議で同アプリを使った利用者の体験に関する調査結果を発表。その中で、当局は同様の接触追跡アプリを展開する前に、プライバシーや機能性に関する国民の懸念によく耳を傾けるべきだと指摘した。「技術に関する国民の意思決定は、システムそのものの技術的特徴をはるかに超えるものであることを政府は念頭に置くべきだ。公衆衛生で技術を活用することは、価値ある倫理的なものとなり得ると同時に、資金の浪費を避けることもできる。ただし、そうしたシステムが慎重かつ適切に計画、設計、開発、試験された場合に限られる」
(forbes.com 原文)