経済・社会

2023.04.26 18:30

スーダンからの退避、日本が今やらなければいけない準備とは

JoaoCachapa / Shutterstock.com

また、情報収集力の点でも限界がある。高田氏によれば、米国の在外公館の多くには海兵隊員が常駐している。米軍の救出ヘリがいち早く、ハルツームに急行できたのは、スーダンの軍や準軍事組織と連絡を取り合い、退避活動中の戦闘を避けるよう調整したからだと思われる。これに対し、日本はエチオピアにいる陸上自衛隊の防衛駐在官がスーダンの日本大使館も兼任している。高田氏は「日本が利用できる飛行場の調整くらいはできるだろうが、米国のような作戦を実行するためには、平素からの軍同士の関係と情報ネットワークの構築が必要だ」と語る。
 
今回、政府は陸上輸送も想定し、陸上自衛隊もジブチに派遣した。だが、日本は憲法が禁じる武力行使を厳しく制限している。少なくとも陸上輸送を想定した自衛隊法の規定では、(1)当該地域の安全確保と戦闘行為が行われていないこと(2)自衛隊の活動に対する領域国の同意があること(3)当局との連携が見込まれることを条件にしている。スーダンでは、国軍と準軍事組織が存在し、停戦合意も完全に守られている状況ではなかった。危険な地域であればあるほど、陸上自衛隊は参加できないという矛盾を今回も露呈する形になった。高田氏も「もし、米国のように行動するなら、憲法など根本的な課題に行きつくだろう」と語る。
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そして、日本政府と自衛隊が今後、考えなければいけない問題が、台湾有事の際、在留邦人や先島諸島の市民らの退避活動をどうするか、という問題だ。台湾には2万人以上の在留邦人のほか、多数の旅行客が往来する。先島諸島にも11万人が住む。スーダンとは比較にならない数だ。

高田氏によれば、先島諸島の11万人を避難させる場合、民間を含む海空の輸送力を最大限に使って3週間かかると言われている。しかも、民間協力のうち、海運事業者は政府等の要請に極力応じることになっているが、航空運輸事業者は、安全が確保されている地域だけでの活動が強調されている。受け入れの問題もある。第2次世界大戦では、日本政府は1944年7月の閣議決定などで、沖縄・奄美諸島から「60歳以上15歳未満の者」や女性らの島外退避を決めた。当時、沖縄の人口は59万人で、該当年齢の人だけで29万人いた。ただ、政府が島外退避を決めたのは10万人で、最終的に45年3月に始まった沖縄戦以前に、島外避難できたのは8万人だけだった。44年8月に対馬丸事件が起きるなど、海上輸送が極めて困難になっていたほか、避難先での生活や仕事の保障がなかったためだった。

また、高田氏は「国民保護法摘要のタイミングが事態対処法の武力攻撃予測事態、緊急対処事態が認定されて初めて国民保護法が適用される。3週間かかる島外避難を、武力攻撃予測事態認定以降に政府や自治体が責任をもって行うという制度の枠組みで果たして国民の安全を確保できるのかという懸念が残る」と語る。
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高田氏は「今回、自衛隊員たちはよくがんばった。今回の活動に関わった政府関係者すべての人々に感謝したい」とねぎらいの言葉をかけた。スーダンからの邦人退避が成功して良かったが、ここで立ち止まってはいけないだろう。

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文=牧野愛博

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