世界における日本の存在感は縮小し続けており、アジアといえば中国を思い浮かべる欧米人が多いだろう。しかし、過去30年以上にわたって日本と関わりつづけ、日本企業の動向や変化を追い続けてきた外国人の一人、ドイツ人のウリケ・シェーデ氏は、日本の将来を必ずしも悲観的なものとして捉えていない。同氏の著書『再興 THE KAISHA』(原書のタイトルは『The Business Reinvention of Japan』)は、日本でうまくいっていることにフォーカスし、日本の持つ強みを活かした新しい日本企業のあり方について提言する本だ。
「ゆっくりな変化」とそのメリット
著者は、日本社会や日本企業を取り巻く文化的な事象に着目し、なぜ日本における変化がなかなか進まず、ゆっくりなのかについて説明している。日本における変化、例えば、男女の格差に着目してみよう。
筆者が学生だった1990年代と比べて20年以上経った現在も、少しは改善したものの大きくは変わっていないことは、ジェンダー・ギャップ指数が世界で底の方に低迷していることからも明らかだ。変化に伴う混乱やネガティブな影響を最小限にするために、変化のスピードが非常にゆっくりで、「外から見ていると、日本の変革ペースの遅さにはイライラさせられ、停滞していると誤解したり、無能だとすら思ってしまう」のだ。このように日本における変化は、時にスローすぎて何も変わっていないように思えることがある。だが、著者によると「ゆっくりだからといって停滞しているわけではない」という。
「変化がゆっくり」であることは、それだけなら、シリコンバレーなどで急速に進むイノベーションなどと比べると、マイナスの印象かもしれない。しかし、本書では、「ゆっくりな変化」の長所が著者の観察眼によって明らかにされている。
「『遅い』のは安定と引き換えに日本が支払っている代償である。秩序を保ちながら新システムに移行することで、社会にもたらす打撃が緩和され、少数の人だけが多くの人を犠牲にして勝つことは認められなくなる」のだ。変化は、どんなものであれ混乱や秩序の破壊などの痛みを伴うものであるが、日本は、秩序をできるだけ保った上で変化を進めるために、ペースがスローになることを社会として(結果的に)選好してきている、という主張である。