経営・戦略

2023.04.28 10:00

人事の本質は「自己実現」で人事を無くすこと|人的資本経営トーク#3

喪失経験から見出した「自己実現」という信念

ピョートル氏が生まれ育ったのは、ポーランドの山奥にある小さな村。当時のポーランドはソ連支配下の共産主義国で、ピョートル氏が幼い頃には、故郷の村で高校へ進学する子どもは見当たらなかったという。その後、ポーランドは非共産主義政権を樹立。欧州への復帰を果たし、ピョートル氏は高校・大学へと進むが、社会が大きく変化する中で失ったものも多くあったという。しかしその経験こそ、ピョートル氏の現在の活動や考え方の礎になっている。

「共産主義から資本主義へ移行し、様々なインフラが民営化される一方で、失業率も上がりました。実際、私の兄も仕事を失い、うつ病を患って亡くなってしまっていました。私が持つ『自己実現』というコンセプト。つまりは自分のポテンシャルを発揮して、何らかのレガシーを残さないと、自分が輝ける短い時間がもったいないという考えは、そうやって生まれたものです。

人は人として輝き、成長するべきです。自分にしかできないものは、探せばどこかには見つかるわけで、その実現こそ人としての幸せです。一人でも多くの自己実現に貢献できればと、今日の会をはじめ教育機関、書籍、あるいは投資など、インパクトをもたらす活動を行っています」(ピョートル氏)

成果主義のためだけではなく、自身の人生や社会も含めて豊かにしようというピョートル氏の信念は、『人は資本ではない』という彼の言葉にも表れている。

人事はいらない。人的資本経営の本質

そんなピョートル氏が目指すのは、意外にも人事の仕事を無くすことだ。人事としての自らの役割を否定するような話にも聞こえるが、その本意は何なのだろうか。

「育成やコーチングをはじめ、ゴール設定から評価までのプロセスを通して社員に適切な仕事や機会を与えることは、実は人事の仕事ではなく、経営者とマネジメントレイヤーの仕事です。そこがしっかりと行われていれば、人事はいらないはずです。

個人が積極的に自己を啓発して、会社のベクトルに沿った目標を設定できる。そして失敗を恐れずにさまざまなことに挑戦して、結果を残せる。あるいは、マネジメントの立場にいる方が、自分のチームメンバーにしっかりと向き合って、適切に支援できる。プラットフォーマーとして、そのような状態をつくることが、人事の皆さんの非常に重要な役割です」(ピョートル氏)
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文=釘崎彩子

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