映画

2023.05.01

黒木華主演・映画「せかいのおきく」に見る 江戸時代のサーキュラーエコノミー

出典:映画「せかいのおきく」

気候変動や資源枯渇など、大量生産・大量消費型のリニア型経済モデルの限界が明らかになりつつある今日、世界では地球環境が許容できる範囲内で社会的な繁栄も目指すサーキュラーエコノミーへの移行が進んでいる。国内では、江戸時代に資源を極力廃棄せず循環させる社会・経済のしくみがある程度確立されていたことはよく知られている。

当時の循環の仕組みには、人間の糞尿を肥料として農業に使用するという手法が取り入れられていた。育てられた食料は体内に入り、排泄されたものは再び肥料となる。人が多く住む都市部の長屋で糞尿を回収し、肥料として農村に運搬する仕事は、当時の社会において最下層から人々の生活を支えていた。

そんな当時の人たちの生き方、暮らし方を、当時のサーキュラーエコノミーという視点をふんだんに交えながら描いた映画「せかいのおきく」が4月28日より公開している。

作中に描かれる当時の庶民たちの暮らし方は、総じて貧しく質素であるが、そんな時代をたくましく生きる人情味あふれる人達を描いたヒューマンドラマである。紙屑拾いや下肥買いなどの仕事をする若者たちが、自分たちの仕事に不満を言いつつも、腐ることなく力強く取り組む姿は誇らしげでもあり、彼らの仕事が支えていた当時の生活における「循環」のあり方を垣間見ることができる。

日本では縄文時代からトイレが存在したとされ、鎌倉時代にはトイレでくみ取った排泄物を肥料として農業に使用するようになったといわれる。江戸時代には、町でくみ取られた排泄物(肥料)と近隣の農家による野菜との交換がされるようになり、のちに肥料は有料で取引されるようになった。農業の生産性を高める価値ある商品として肥料が流通し、循環するしくみが確立したのである。

150年以上前のこのしくみを支えた人達の暮らしを知ることは、今後の資源循環の在り方を身近にとらえるよい機会になるだろう。

劇中に登場する美術・衣装・小物類は、新品は一切使用せず撮影

この作品では、使用する美術や道具類に関しても循環が意識されている。

映画美術のセットは、劇中に登場する建物や装飾、小道具など撮影のために新しく作られ、撮影後はごみとして廃棄されることが多々あるが、同作品では、美術セット・小道具・衣装に至るまで、劇中に出てくるものすべて、新品を一切使用しないルールのもと撮影の準備が行われた。
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文=和田麻美子

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