メタフィジックは、ソーシャルメディアで拡散されセンセーショナルを巻き起こした動画「DeepTomCruise(ディープ・トム・クルーズ)」の制作に使われたディープフェイク映像技術を、エンターテインメント業界向けVFXソリューションとして商品化している。これはジェネレーティブAI(生成AI)を使用して次々と開発されている新しいツールの1つで、ライブパフォーマンスを模倣したり実際の写真とシームレスに融合できたりするほどリアルに写実的な画像やモーションビデオを作成する技術だ。公開オーディション番組『アメリカズ・ゴット・タレント』で初公開されたこの技術は、グレアムによると、2024年公開予定のロバート・ゼメキス監督の新作『Here』で長編映画として初めて大々的に使用され、主演のトム・ハンクスとロビン・ライトの容姿を若返らせるという。
AIを使って俳優の容姿を若返らせ、説得力のあるデジタルパフォーマンスを実現するという特定の用途は、特殊効果業界に混乱をもたらす可能性はあるものの、続々と登場するディープフェイクの利用方法の中では比較的無害な部類に属する。しかし、一般的にディープフェイクを見た人がまず考えるのは、生き生きとした本人そっくりの政治家の偽情報や、合意に基づかないポルノなど、より邪悪なシナリオだ。メタフィジックの技術は、パンドラの箱を開けるものなのだろうか?
TED講演後のインタビューでアンダーソンにこの点を問われたグレアムは、次のように答えた。「私たちは技術をオープン化していないので、誰かが監視なしに使うという問題は起きない。当社の顧客は、私たちが訓練に使用する画像に対して権利を持っているという非常に長い保証書に署名しなければならない。ただ、長期的に見てコストがゼロになり、10億人がこの技術を使うようになったときには、人々が自分自身のデータを所有・管理する分散システムが間違いなく必要になる」
IT業界に入る前は弁護士をしていたグレアムは、知的財産法にこれらの問題への対応を迫るため、自社技術で作成した自身のAIアバターの著作権を申請し、作成物が著作権保護の基準にいかに適合しているかの説明も添えた。米著作権局はまだ裁定を下していない。