いまやアート界に新たな風を送り込むキーパーソンの一人である武田が、そもそも畑違いのアートに関わるようになったのはなぜなのか。また、アートにどのような可能性を感じているのか。
アート領域を専門とする編集者・コンサルタントである深井厚志が、話を聞いた(前編、後編はこちら)。
あるロシア人アーティストとの衝撃的な出会い
深井:武田さんは繊維問屋・丸太屋の4代目としてお生まれになり、大学卒業後はアクセンチュアで医療や公共領域のコンサルタントとして7年間ご活躍。その後家業に戻られ、LOGSを設立されました。そのようなキャリアのなかで、アートとはどう接点を持ったのでしょうか?武田:家業への参画は、親会社に経営譲渡された赤字企業を任されたところからスタートしました。それがLOGSの前身となるわけですが、1年で黒字転換させたのち、その先が見えなくなってしまったんです。
アクセンチュアでは、比較的に経済的インパクトが大きい仕事に従事していたのに対し、問屋業は1件数万円そのギャップの大きさに居心地の悪さを覚えていたと同時に、扱っていた事業自体にも限界が見えていた。加えて、幼い頃から刷り込まれてきた「家業を継ぐ」という義務を実際に遂げてしまったとき、自分のやっていることの意味を考えるようになっていました。
そんななか、2017年の終わり、あるアーティストの個展を開催したいという知人に、所有していた馬喰町のスペースを貸したことがあったんです。それがオンラインジャーナル「e-flux」の創設者でもあるロシア人アーティスト、アントン・ヴィドクルとの出会いでした。
ローンチイベントで、アートに知見のない僕にとっては非常に難解な映像作品と、テルミンとマトリョーシカを合体させた電子楽器「マトリョミン」を複数人で演奏するという摩訶不思議なパフォーマンスを見させられて。
その場で感想を求められた僕は、戸惑いつつも、アントンが制作活動の軸として掲げている「ロシア宇宙主義」とは一体なんなのかを本人に聞いてみました。
いわく、人間を不老不死にする研究方法だと。不老不死になれば人間は働く必要がなくなり、アート活動に傾倒する。その結果、非生物とのコミュニケーションが可能になり、最終的には世界が一つになるんだ、と。