北米

2023.05.01

知らないうちに犯罪組織に加担? メキシコ産アボカドの裏側

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メキシコでは組織犯罪と合法的なビジネス活動の境界線が曖昧で、完全に存在しないこともある。太平洋岸のミチョアカン州は、活況を呈するアボカド産業の主要拠点であると同時に、主要な紛争地帯でもある。アボカドはこの10年間で、メキシコにおける組織犯罪活動の合法ビジネスへの拡大を象徴する存在となった。

米国で消費されるアボカドの約8割はメキシコから輸入され、そのほとんどがミチョアカン州産だ。つまり、米国でアボカドを食べる場合、メキシコ有数の暴力的で複雑な事情を抱えた州で生産された農産物を口にしている可能性が高い。

ミチョアカン州の人口は、米コネチカット州よりわずかに多い程度。だが、アンドレス・マヌエル・ロペスオブラドール大統領就任後の4年余りで、すでに1万人以上が殺害された。州内では日々、暴力沙汰が相次ぎ、憂慮すべき事態となっている。

2023年4月4日には、武装した犯罪集団が警察と長時間の銃撃戦を繰り広げ、警官2人が死亡した。ミチョアカン州の麻薬カルテルの殺し屋たちは、爆撃ドローンや地雷、即席爆発装置(IED)まで駆使する。同州警察は今や重装備の軍用装甲トラックで対抗している。

シンクタンク「国際危機グループ(ICG)」のメキシコ人アナリスト、ファルコ・エルンスト最近のポッドキャストインタビューで、暴力は合法的なビジネス活動を阻害する外的要因ではなく、ミチョアカン州のビジネス取引における交渉手法の1つとして理解する必要があると解説した。

「汚職が機能不全に陥っている。州政府が犯罪組織と関わってきた長い軌跡がある」と語るエルンストは、ミチョアカン州の動態を「政府が犯罪組織に立ち向かっている」と要約するのは間違いだと指摘する。

「これらの犯罪組織を私たちは自律的な存在とみなしがちだが、彼らの主要な資源の1つは州政府機関との結びつきによるものだ。犯罪組織は選挙運動に資金を提供し、暴力やその他の圧力を行使して候補者に票を流している」

事実、ミチョアカン州などメキシコの複数の地域で、選挙で当選した政治家と関係を築くことは犯罪組織の基本となっている。「適切な協定を結べば、法執行機関は犯罪組織に不利な行動をとることはない。免責されなければ犯罪組織として生き残ることはできず、州政府とつながりを持つのは必須だ。(犯罪組織は)事実上の政治的アクター(行為主体)なのだ」とエルンストは断言した。

ところが、ここ数年で大規模な犯罪組織が細分化された集団に分裂し、政治権力も競合する政党間で分断されるようになったため、これまで犯罪活動を組織・規制してきた方式が崩れつつある。
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編集=荻原藤緒

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