アート

2023.04.22 08:30

世界の人気美術館ランキング2022、ロンドンがパリに勝てない理由

パリの美術館がより順調に回復

パリとロンドンにおける2022年の来館者数と、芸術を楽しむアート・ツーリズムについては、興味深い点が2つある。地理的に近いこの2都市は、まったく異なる問題を抱えているのだ。

1つ目は、パリの美術館を合わせた来館者数は、ロンドンのそれを大きく上回っている点だ。フランスと言えば、世界で最も多くの外国人観光客数が訪れる国。その首都を訪れた人が、美術館で芸術に親しんでみようかと考えるのはもっともだ。

しかし、驚くようなその数字が示唆するのは、それだけではない。ルーヴル美術館の来館者数は、2位のバチカン美術館を250万人も上回っている。その混雑ぶりは、ルーヴル美術館側が来館者の制限を検討せざるを得ないほど深刻化している(2023年1月に来館者数を1日3万人に制限すると発表した)。

2つ目は、コロナ禍後に、パリにある複数の美術館がいかに回復しているかという点だ。その回復度合いは、ロンドンをはるかに超えている。2022年の来館者数を2019年と比較すると、ルーヴル美術館は前述したようにマイナス20%。オルセー美術館は10%、ポンピドゥー・センターは8%の減少にとどまっている。
では、英仏海峡の向かい側に位置するロンドンはどうだろうか。大英博物館とテート・ギャラリーはともに、来館者数が2019年比で大きく減少し、それぞれ34%減と36%減となっている。

英タイムズはこの理由として、ロンドンにある美術館/博物館に足を運ぶ観光客は大半が外国人で、ロンドンを再び訪れようという意欲が失われているからだとしている。

・英国が欧州連合(EU)を離脱して以降、中国人観光客が欧州旅行の際にロンドンまで足を延ばす場合には、ビザが別途必要となった

・EU加盟国の学校は、ロンドンを修学旅行先に選びにくくなってしまった。児童生徒を英国に連れて行く際には、通常のEU身分証明書(ID)は使えず、パスポートが必要だからだ

・英国政府はEU離脱後、外国人買い物客が付加価値税(VAT)免税で買い物ができる制度を廃止していたが、その後、復活を計画していた。しかしトラス政権は2022年10月、この復活を中止した。アジアからの観光客にとっては、免税で買い物できることが大きな魅力だった

・ロンドンは依然、ホテル代や劇場チケットが最も高額な都市の1つだ

・最後にもう1つ。ロンドンの美術館は、その多くが現在でも、来館日時を指定して予約するよう求めており、観光客の不満を招いている。タイムズ紙に言わせれば、コロナ禍が終息したいま、予約などもはや不要だ

ロックダウンはもう遠い昔のことだと、世界の大半の人々が考えていることを願いたいが、コロナ禍による損害と、政府によって異なるコロナ対策の影響で、なかなか回復が進まない地域もある。今回のランキングを伝えるザ・アート・ニュースペーパーの記事は、そう結んでいる。

forbes.com 原文

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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