幻覚を見る目的で市販薬を過剰摂取するという行為が、どれほど悪いアイデアかは言い尽くせない。「幻覚を見せてあげよう」と言われたら、普通は「ノー」と答えるだろう。良くないことだと頭で判断するはずだ。米食品医薬品局(FDA)はすでに昨年9月の時点で、ベナドリル・チャレンジを行わないよう警告している。製造元製薬会社を傘下に持つ米Johnson & Johnson(ジョンソン・エンド・ジョンソン)も、ウェブサイトでこのチャレンジの危険性を警告し、ジフェンヒドラミンの誤用・乱用に警鐘を鳴らしている。というのも、2020年にオクラホマ州で15歳の少女がベナドリル・チャレンジで死亡し、ニュースになっているのだ。
だが、ベナドリルを次々と口に放り込み、その様子を動画に撮影してTikTok(ティックトック)などのSNSに投稿する挑戦は終わらなかった。SNSチャレンジというのは、インターネット上の自動再生動画と同様、なかなか消えないものだ。
米地方局ABC6によると、ばかげた挑戦の新たな犠牲者はオハイオ州コロンバス在住の少年で、ベナドリル12~14錠を摂取したとみられる。挑戦の様子は友人たちによって撮影されていたという。少年はてんかん発作を起こして入院し、人工呼吸器に1週間近くつながれた末に死亡した。報道によれば少年の家族は、子どもを持つ親たちに、我が子がSNSで何をしているか目を光らせ、親子で話し合う時間を持つよう呼びかけている。また、ベナドリルなどの医薬品を購入できる年齢を法律で制限するよう議員に働きかけたり、TikTokをはじめとするSNSの利用に年齢制限を設けるよう求めたりもしている。
遺族の働きかけが実ってこれ以上の悲劇を防げればよいが、現状では残念ながらベナドリル・チャレンジはとても簡単にできてしまう。ジフェンヒドラミンの入手は非常に容易だ。基本的に、お金を持って市販薬を売っている店に行けば誰にでも買える。年齢制限は一切なく、多くの人がアレルギー症状の緩和に利用している。