HPVワクチン接種が控えられていた背景
HPVワクチンは比較的新しいワクチンで、日本では2010年から子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業として接種が行われ、2013年4月には予防接種法に基づく定期接種に位置づけられました。2013年4月に定期接種になったわけですが、「多様な症状」と呼ばれる副反応(しびれ、歩行困難、倦怠感、学習意欲の低下など)が問題となり、ずいぶんとマスコミも煽りました。その結果、2カ月後の2013年6月には、「積極的な勧奨を控える」という決定がなされ、市区町村からのお知らせ(個別接種を勧める内容の文書)も差し控えられることになりました。
副作用に関する調査結果、安全性の確認
副反応については、様々な調査研究が行われていますが、結論として「ワクチン接種との因果関係がある」という証明はされていません。ある研究では、「HPVワクチン接種歴のない女性においても、HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の「多様な症状」を有する女性が一定数存在したことが明らかに」なっています。つまり、ワクチン接種歴がなくても、小学校6年~高校1年相当の女子には「多様な症状」を呈することがあるということです。心療内科医の私としては、ある意味こちらも心配な話です。これらの年齢では、親子関係、友人関係、自分の身体の変化、恋愛、学業・進学など様々な悩みを抱えつつも、相談できないケースがあります。その中には、摂食障害や適応障害などの健康課題があるかもしれません。周囲の大人がアンテナを張り、手を差し伸べてあげてほしいと思います。
海外は7~8割が接種! 日本は?
世界の多くの国では接種対象者の7~8割の接種が当たり前、というトレンドになっています。海外でのHPVワクチン接種率とみると、国によって違いはありますが、接種に先進的な北欧やオーストラリアは特に接種率が高く、約9割の女性が最低1回はHPVワクチンを接種しています。接種率が低いことを批判されていたアメリカも、2019年には6割にまで上がってきました。日本はというと、1%未満という驚異的な低さです。これで女性の健康は守れるのでしょうか。
筆者は研修医時代、4価のHPVワクチンを「自費接種」
私の話で恐縮ですが、私が中高生の頃には定期接種はなく、自分に知識もなく、接種期間は知らぬ間に過ぎ去ってしまいました。しかし、研修医になった時に産婦人科の先生から詳しく説明してもらい、自分の年齢、メリットとデメリットなどを鑑みて、4価のHPVワクチンを自費で接種した思い出があります(当時は2価・4価のワクチンしかありませんでした)。なお、米国の疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)では、26歳以下まで(性別問わず)接種推奨されていますので、高校1年を過ぎてしまったら、受けても意味がないというわけではありません。新たなHPV感染の予防できるため、高校2年生以降でも接種を検討してみるとよいでしょう。日本では、高校2年生相当の年齢以上の女性、男子、男性に対する公費助成はありませんが、自費で接種可能です。27歳以上の場合には、効果が落ちますので、医師と相談してみることをお勧めします。なお、海外では40カ国以上で男子にも公費助成があります。