丹後で考えた「中庸の究極」と英ジェントルマン文化の共通点

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フランスで年金改革反対デモが激化しています。4月13日にはデモ隊の一部がLVMH本社内や本店内に侵入して抗議しました。損害が出ないよう配慮したとは伝えられていますが、火炎から煙がのぼる映像の印象においては、「襲撃」と呼びたくなります。フランス革命時のバスチーユ牢獄襲撃はこんな感じだったかもしれない、と連想せずにいられませんでした。

本連載『ラグジュアリーの経営者が現状を「タイタニック号」に喩える理由』で紹介したような「前方に氷山があることにうすうす気づきながらパーティーを続けるタイタニック号」がいよいよ氷山の一角に接触したような、象徴的な光景にも見えました。

2022年12月期のLVMHの売り上げは約11兆857億円で、会長のベルナール・アルノーはForbesの世界長者番付の第1位。格差が極限まで拡大した時に招きかねない危険に関しては当のフランスが経験済みですが、極端な富の偏りの加速を放置したまま平和裡に事態が収拾するとも思えません。

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さて、ラグジュアリーにおける極端という特徴を「量」ではなく「質」に見る、しかも「極端な中庸」というか「中庸という質を過剰なまでに極める」という観点で考えますと、浮かんでくるのがイギリスのジェントルマン文化です。

フランス革命を重ね見てしまったので少し歴史を振り返ってみますと、フランス革命直前まで栄華をきわめていた貴族は、革命で凋落します。他のヨーロッパの貴族も衰退していきます。しかし、イギリスの貴族だけはその後も市民革命を経ることなく存続し、支配階級として影響力を保っていきます。

理由のひとつが、「ジェントルマン」というシステムにあるのです。

17世紀後半に、「ジェントリ」と呼ばれる地主階級が爵位貴族のすぐ下に形成されるのですが、17世紀半ばからは、爵位貴族とジェントリを総称して「地主貴族階級=ジェントルマン階級」と総称される階級になります。

時代とともに、ここに聖職者や高度な専門職従事者も加わっていきます。爵位貴族が貴族院議員、それ以外が庶民院議員として政治の世界でも影響力を及ぼし、ジェントルマン階級は支配層を形成していきます。
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文=安西洋之・中野香織

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