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2023.04.21

「ゼレンスキーは超優秀な戦時大統領」 ハーバード大ウクライナセンター長評す

ゼレンスキー大統領はロシアの侵攻後1カ月半、側近らとともに地下壕で過ごした

脇を固める優秀なライター陣


ではこのように良質なスピーチ・コンテンツはいかにして作られているのだろうか。元ジャーナリストのドミトロ・リトヴィンは、ゼレンスキーが発信する日常的なメッセージと「政治的」なメッセージの大部分のライティングを担当している。文化的なイベントや、新年など祝日のスピーチは「クヴァルタル95」の元脚本家であるユーリ・コスチュクの担当だ。元ジャーナリストのダリア・ザリヴナもしばしば原稿作成会議に出席している。

もう一人の原稿書きは、ゼレンスキー自身だ。ザリヴァナによれば、「大統領は、重要なメッセージ、事態を大きく変えるような考えや行動の70%を頭の中に入れて会議に臨むことが多い。」強いスピーチは聞き手の感情を揺さぶり、記憶に刻まれ、ミームとなる。

ゼレンスキーがどれぐらいの割合で実際の原稿作成に取り組んでいるかは明確ではない。「会議や電話の合間の30分だったり、移動中だったり」と周辺人物は述べる。「たとえば英国議会でのスピーチは、自分で飛行機の中で原稿を書いていた。」

ナイーブだった目測


「ゼレンスキーの典型的な1日は、軍や治安部隊との会合で始まる」とウクライナの映画プロデューサー、イェルマークは言う。

「そして、3~5件の電話や国際会議があり、週末も同じようにある。」オープンデータによれば、ゼレンスキーは今年年初の1カ月半、45回の国際電話、21回の会議を行ったという。

ウクライナの第5代大統領ペトロ・ポロシェンコ下で外務省を率いたパブロ・クリムキンは、「大統領は、今や国の最高の外交官だ」と述べる。

ゼレンスキーの外交はどの程度成功しているのだろうか。クリムキンは「西側諸国について言えば、ゼレンスキーらはよくやったと思う」と評価する。

戦前も、ウクライナには西側にある程度信頼できるパートナーがいたが、あくまでも断片的だった。現在では一枚岩の連合体に向けて、結合を月々強めているといっていいかもしれない。

クリムキンは、より高度で効果的な兵器の供給に加えて、ロシアの戦争犯罪に関する法廷の設置に向けた準備が進んだことと、ウクライナがEU加盟へと立候補したことを具体的な成果として挙げている。2022年5月と6月にはゼレンスキーの公的活動はピークに達し、各月、23回と29回の演説を行った。

そして6月23日、ブリュッセルで、EU27カ国の首脳はウクライナにEU加盟候補の地位を付与することを決議した。

ゼレンスキーは、学校で教わったような方法では交渉を行わない。「最大限の要求をし、誰にでも面と向かって嫌なことを言い、ウクライナの平等を強調する」とサイモン・シャスターは言う。一度は、バイデンがゼレンスキーに腹を立てたこともあった。

マンチェスター大のオルガ・オヌフは、ゼレンスキーが2019年の大統領選に勝ったのは少なくともウクライナ人に平和を約束したからだと言う。

しかし、ロシアとウクライナの紛争に対するゼレンスキーの見解はナイーブすぎた。

ゼレンスキーは選挙の3カ月前、ウクライナの作家でジャーナリスト、政治家でもあるドミトロ・ゴードンとの対談で、対立を克服するための戦略としてプーチンと交渉のテーブルにつくことで「われわれ二者はどこか中間地点で会えると思う」と述べた。だが、見解の甘さはすぐに打ち砕かれた。2019年12月にパリで行われた会談で、ウクライナとロシアの大統領は、一切の合意に到達できなかったのだ。
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翻訳・編集=石井節子/伏見比那子

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