ホーキングとケンブリッジ大学で長年の同僚だった、トーマス・ハートッホが書いた説得力のある新著、『On the Origin of Time: Stephen Hawking’s Final Theory』では、宇宙の起源に関するホーキングの最終的な考えが、詳細に再検討されている。
1980年代初期、多くの宇宙論学者がマルチバース(多元的宇宙)というアイデアに熱中していた。無限とも思われる数の宇宙からなる仮説上の集合だ。しかしホーキングは、そんなマルチバース概念に満足していなかったようだ。そして自身の終わりに向けて、彼は恒星、銀河および知的生命の支えられる宇宙の進化に関する、最も根底的な哲学的問題を複数取り入れた宇宙起源理論を探究した。
本書の核心は、物理法則が宇宙そのものに合わせて変化し進化しうる新しい宇宙の存在に対するホーキングの興味について書かれた部分にある。
しかし、現在ベルギー、ルーヴェン・カトリック大学の理論物理学者であるハートッホは、宇宙の最も古い瞬間まで辿っていくと、より深いレベルの進化に遭遇し、そこでは物理法則自体が変化すると書いている。「原始的宇宙では物理法則が変化し、ダーウィンの進化論に似た多様性と選択のランダムな過程の中で、さまざまな粒子や力、時間さえもがビッグバンの中へと消えていく」と彼は指摘する。
しかし、たとえ初期の宇宙がこれまで考えられていたよりも変化可能だったとしても、そこには宇宙に関する不変の真実がいくつかあることを、ハートッホは著書の中で繰り返し述べている。
・重力は極めて弱い舞うR基本力だ。もしもっと強かったなら「恒星はより明るく輝き、つまりはるかに若くして死に、その熱によって温められている惑星に複雑な生命が進化する時間は残されていない」とハートッホは指摘する
・もしビッグバン放射における温度差がわずか1万分の1でも大きかったなら「宇宙構造の種は、そのほとんどが巨大ブラックホールに成長して、恒星に富んだ居住可能な銀河は生まれなかっただろう」とハートッホは書いている
・この宇宙にはたまたま3つの大きな空間の次元があるとハートッホはいう。「空間の次元を1つ加えるだけで、原子や惑星軌道は不安定になり、地球は太陽の周りを安定した軌道で回る代わりに、太陽に向かって螺旋状に落下していくだろう」