インセルのコミュニティは、メディアや研究者によって「女性蔑視主義者であり、暴力を助長し、過激な思想を流布して参加者を扇情している」として批判されている。インセルであると自称または推定されている人物が起こした無差別殺傷事件も複数回起こっている。
こうしたインセル現象は、心理学的研究の対象となっている。しかし、こうした危険で破壊的な潮流に、多くの若い男性たちが引き寄せられている根本的な要因への対処は、まだ進んでいない。
インセルに関連したムーブメントもある。例えば、男性権利運動(MRA:Men's Rights Activism)、MGTOW(Men Going Their Own Way=ミグタウ、女性との付き合いを極力避ける男たち)、父親の権利運動といったものだ。
以下では、問題を大局的に捉え、若い男性たちをこうした罠から効果的に遠ざけるのに役立つと思われる2つの知見を紹介する。
1. インセル運動に加わる若い男性たちは、社会から疎外されている傾向にある
ジョーダン・ピーターソンは、トランスジェンダー運動に対する批判的な姿勢などによって物議をかもしているカナダの心理学者だ。ピーターソンは、2022年に英国のジャーナリスト、ピアース・モーガンのインタビューを受けたが、このなかでピーターソンは、自身をインセルコミュニティの「知的ヒーロー」と考えているかと尋ねられた。ピーターソンは、次のように答えた。「人々がどれだけ自信を失っているかを理解するのはとても難しいが、多くの若い男性たちは、間違いなくこうしたカテゴリーに当てはまる。彼らは、自分を女性にとって魅力的な存在にするにはどうすればいいかを知らない。当然のことながら、女性のほうは選り好みをする。こうした男性たちは孤独であり、誰もが彼らを嘲笑の的にする」
学術誌『Current Psychology』に掲載された論文によれば、インセル男性は、非インセル男性よりも社会的サポートを得られない傾向があり、孤独を経験しやすい状態にある。この事実は、複数のメンタルヘルスおよびそれに関連する問題と結びついている。
このような孤独な男性たちが、共通の経験によって彼らを「理解」してくれるように感じられるオンラインコミュニティに出会うと、帰属意識を求めてそこに引き寄せられる一方で、その本質的な有害さを見落としてしまいやすい。
インセルコミュニティの根幹には、劣等感や、自分はセックスや恋愛に関して無価値であるという感覚が存在しており、それが女性への憎悪というかたちで顕在化する。彼らは、自分自身の問題の直接的原因は女性にあると信じているのだ。