中国が台湾周辺で軍事演習 「抑制的だ」と安心してはいけない理由

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中国軍が8日から10日まで台湾周辺で軍事演習を実施した。台湾の蔡英文総統が米・ロサンゼルスでマッカーシー米下院議長らと面会したことに反発した。昨夏に行った演習と比べて、弾道ミサイルの発射がなかったことや訓練期間が短かったことから、各メディアは、中国軍が抑制的な対応を取ったと伝えた。東京大学東洋研究所の松田康博教授は、中国軍の対応について「外交が機能した結果です」と説明する一方、空母「山東」の動きを例に、中国軍が機会を逃さずに必要な軍事措置を取っている点を指摘する。

中国は昨年8月の軍事演習では弾道ミサイル10発以上を発射し、うち5発が日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。当時は、米国も中国も外交がうまく機能していない局面だった。米中関係筋によれば、当時のペロシ下院議長が昨年4月に台湾訪問を計画。新型コロナウイルスへの感染でいったんは延期になったものの、最終的に台湾訪問に踏み切った。ホワイトハウスはこの動きに懸念を示し、メディアにペロシ訪台をリークするなどして、抑え込みにかかったが、結局うまくいかなかった。中国も、ゼロコロナ政策を巡る国内の混乱に加え、秋の共産党大会を控えていた。松田氏は当時の中国の状況について「コロナと権力闘争で、外交に力を割けない状態だったところに、ペロシ氏の訪台で感情を逆なでされました」と語る。

結果的に緊張だけが高まる結果を招いた。松田氏によれば、中国も、コロナ後に投資を呼び込みたかったが、外資に冷水を浴びせてしまった。軍事演習のために操業できなかった中国漁民たちから補償を求められるなど、経済的には明らかにマイナスの結果を招いた。今回、米台が調整した結果、マッカーシー氏は台湾を訪問せず、蔡英文氏の訪米時に面会するという形を取った。中国も過激な軍事行動を取らず、比較的、抑制的な結果になった。

ただ、松田氏は、軍事演習について「機を逃さず、中国軍がやっておきたかった演習を着実に実施していました」と指摘する。今回の演習では空母「山東」も参加。山東は台湾東部海域に位置し、艦載機の発着訓練を行った。台湾国防部によれば、10日には山東の艦載機を含む中国軍機91機の飛行が確認されたという。松田氏は「台湾東部には空軍基地が2カ所あります。山をくりぬいて作った強固なバンカーがあり、弾道ミサイルで上から破壊するのが難しいのです。中国は今回、台湾東部海域に回り込んで、巡航ミサイルや滑空弾などで横から攻撃する方法を試したのでしょう。軍事的に実証したかった訓練を、この機会に実施した印象です。ただし、艦載機はまだ爆装していませんでした」と話す。
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