新型コロナウイルス感染症やロシア・ウクライナ情勢に端を発した物資不足の中で、食料自給率や農業就業人口の減少と言った課題が国内で改めて浮き彫りになっている。このような状況からも、農業分野における課題解決にも寄与する可能性のある技術情報の海外流出は由々しき事態だ。今、日本企業の成長のカギになる知的財産の価値と企業の対応が改めて問われている。
脅かされる日本企業の「価値ある財産」
筆者が勤務するパロアルトネットワークスが、世界各地のエグゼクティブ(CxOレベル)1300名を対象に実施した調査の中で、特に目に止まったデータが1つある。セキュリティインシデントによる被害として、日本で最も多かったのが「知的財産の漏洩」だ。全世界平均で最も多かった被害は「業務の停滞」(33%)だったが、日本では「知的財産の漏洩」が41%と米国をはじめとした他の先進国地域と比較しても高い水準にある。日本と海外の産業構造の違いを考えれば、海外と比較して知的財産の漏洩が突出している点は驚くべき数字ではないかもしれない。数字が裏づけているように、日系企業の研究開発の成果は狙われ続けている。技術力が高いという、市場で長年認知された世界的評価は大きくは変わっていないことが想像できる。
通信事業者社員から機密情報を不正に入手したとして、ロシアの元外交官が書類送検されたものの、今回の件のように国外に出国して逮捕が困難になったケースが2020年にも発生している。昨年5月に公布された経済安保推進法の整備など、国力につながる可能性のある知的財産を守るために、国レベル、政策レベルでの取り組みが不可欠な現状が改めて浮き彫りになっている。
知的財産とは異なるが、同じく農業分野では国内で開発されたイチゴや葡萄をはじめとした果物の種、畜産の領域では和牛の受精卵や精子が海外に流出する事案が近年問題になっている。知的財産にせよ果物や動物の種にせよ、ミクロな視点では、流出したものの所有者にとっては「自分の所有物」が流出したに過ぎないが、マクロな視点では日本という国の競争力や経済成長のタネが奪われることになる。