ゴーストライティングではない、あくまでも「初稿」
同社のCEOであるヴィシャル・ジョシはプレスリリースで、最近の調査で、同社のコミュニティの89%の人々が「結婚式の原稿を書くのが大変」と感じていると説明した。AIツールを使用することはロマンティックでないと思うだろうか。しかし「Wedding Writer's Block」は、ペルシャ語文学史上最大の神秘主義詩人ジャラール・ウッディーン・ルーミーやシェイクスピア、はたまた占星術師などさまざまな古来の書き手からインスピレーションを蓄積し、ユニークで心のこもったメッセージの作成を支援することができるらしい。つまり、新郎新婦や参列者がそれぞれのハードルを克服し、楽しく想像力豊かな方法で自分の感情を表現できる、結果的に会場を沸かせたりしんみり涙させたりするスピーチのために、OpenAIを活用しているというのだ。
公平を期するため、このツールは、本格的なゴーストライターというよりは、初稿ツール、すなわちインスピレーションを与える装置として販売されている。実際に、インスピレーションを得るためにこの検索エンジンが使用されていることも事実なのだ。
Joyが提供する「Wedding Writer's Block」が作成する誓いの言葉や、結婚式場のウェブサイトのコピー、乾杯の挨拶、その他もろもろの「言葉遣い」のオプションを「まるうつし」するユーザーはそう多くはないだろう。
恋愛、愛にもバイラルチャットボット技術?
このツールは、OpenAIのバイラルチャットボット技術をより大きなスケールであらゆるものに取り込もうとする、テック業界の動きを物語っているように思える。つまり、恋愛やデート、人間関係という、人間にとって最も重要な生活の一部にもチャットボット技術を取り込もうとする動きだ。この種の技術トレンドでよく見られるように、オンラインデートの世界はこのAIツールの流行に最も早く飛びついた。ウェディング業界もそれに追随しているようだ。
一方、オーストラリアで「the Celebrant Institute」の設立に携わった国際結婚のセレブラント(コミュニティにおいて、正式な儀式、とりわけ結婚式を執り行う役割)であるジョシュ・ウィザーズはもともと、結婚するカップルの誓いの言葉を伝統的なものからあえて少し変えることを好んでやってきたという。しかし最近、ウィザーズは、人工知能がそうした自分ならではの工夫を台無しにするのではないかと懸念している。チャットボット「ChatGPT」が結婚式で活躍する可能性があるのではないかということは、オーストラリアでもすでに噂になっているのだ。
「結婚式のFacebookグループで、スピーチを書いたり、誓いの言葉を書いたりするのにChatGPTを使っている人がいるようだ。結婚式で話す言葉をコンピューターが作るなんて、それで出来上がるのはリサイクルされた決まり文句である。人間らしさや、愛を感じることができる瞬間が失われてしまうだろう」とウィザーズは不安を表明している。
(この記事は、英国のテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」から転載したものです)