経済・社会

2023.04.14 11:30

半世紀も前に導入した「社会的共通資本」がなぜ今、共感を呼ぶのか

社会的共通資本、人々の生活の基盤を支える共有財産はその国や地域で最適な方策を試行錯誤し、最善をつくし、管理することを目指します。基盤は社会主義的にその先の創造性は資本主義に委ねるという制度なのだと筆者は解釈しています。

社会的共通資本の考え方は理想論であると言われることもあります。理想があるからこそ現実の差分をいかに埋めていくか、現場での葛藤が生まれ、それらを乗り越えようとするプロセスが社会や制度を変えていく原動力になるのです。新しい制度構築に向け、社会的共通資本は共感をもとに実装へと進化拡張していく時期に入っているのではないでしょうか。

実は宇沢が生前、「ただの屋台は人のプロパティ、資材かもしれないが、博多の屋台は社会的共通資本だ」というようなことを、酒席で口をすべらせて言ったことがあります。

そのことをソニーコンピュータサイエンス研究所の舩橋真俊さんに言うと、「ということは、屋台自体が社会的共通資本であるかないかではなくて、その関係性や、それが醸造されてきた文化的な価値、実際に社会の中でどう受容され、利用されているか、どれほど人の心の拠り所になっているかというような色々なパラメーターが絡まって、社会的共通資本としての実現度合いが決まる架空のスコアがあるのではないか」と言われました。

いろいろな方々との対話、まさにその共感から、進化拡張の芽を感じています。

人間の心があって初めて経済は動き出す。新型コロナ感染症のまん延により経済に翻弄されているように感じる日々ですが、経済を動かしているのは人間です。いま、社会が大きく変わろうとしているのも、人間の心が動いているからこそです。未来の社会を、心を大切にした社会的共通資本という理論から築いてみませんか。


占部まり◎内科医、宇沢国際学館代表取締役。1965年、シカゴにて宇沢弘文の長女として生まれる。東京慈恵医科大卒。1992~94年メイヨークリニックーポストドクトラルリサーチフェロー。現在は地域医療に従事するかたわら、宇沢の「社会的共通資本」をより多くの人に知ってもらうための活動を行う。

文=占部まり イラストレーション=オリアナ・フェンウィック

この記事は 「Forbes JAPAN No.102 2023年2月号(2022/12/23発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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