日本は、リスク回避志向が強いと聞いています。良い大学に行って、大企業に就職する。これは素晴らしいことです。そのことが、強力でグローバルな日本企業を生み出してきたのだと思います。
しかし一方で、価値を創造する起業家の力を見逃していた、ともいえるのではないでしょうか。
もし起業を考えるなら「リスクを取ること」です。そして腰を据えて取り組み、ネットワークを構築し、一緒に挑戦してくれる人、発想を変えてくれる人を探してください。さらには、シリコンバレーとつながる方法を探してください。また、起業家が参加できる、起業家に特化したコミュニティを探してください。
起業には明確な道筋はなく、まるで未開の地を行く旅のようなものです。でも、経験した人たちの多くはこう言います。 「それだけの価値がある旅だ」と。
取材後記
ダーシュさんが繰り返し主張していたのは、StartXの原点である「コミュニティ」の重要性です。シリコンバレーに住んでみて、想像以上に、プレッシャーが大きい場所であることに気づきました。生活にかかる経済的負担が重く、よほどのお金持ちでなければ生活に余裕は生まれません。世界中から集まった頭脳が日々競争していて、LinkedInを開けると、華やかな実績が目に入ってきます。そして会う人の多くが、人生をかけて成し遂げたいミッションを堂々と語るのです。自分が何者かについて確固たる自信がなければ(むしろその方が普通だと思いますが)、精神的に追い詰められていきます。実際、そうやって追い詰められ悩む人たちに何人も会いました。
そんななか、道なき道を行くのが起業です。
だからこそ、互いの悩みを共有し、支え合うコミュニティが大事なのでしょう。StartXには5回ほど足を運んでみましたが、輝かしい実績をあげた先輩起業家と語り合う起業家たちの、真剣だけれど穏やかな横顔が印象的でした。
ダーシュ・シン・マン◎イギリスの銀行バークレイズのリテール・バンキングで、事業、地域、機能にわたる変革を主導。アフリカに移り、12カ国のバークレイズの拠点で働く。その後、スタンフォード大学ビジネススクールに留学。卒業後、StartXに参加。最初の役職であるチーフ・オブ・スタッフでは、組織の構築とさまざまな組織運営に関するCEOのサポートに従事した。2021年から事業開発責任者となり、パートナーとの関係や組織の収益目標をすべて管理する。 また、スタンフォードのStartXエコシステムに近づけるため、さまざまなグローバルな起業エコシステムとパートナーシップを構築している。