人口約80万人、国土は九州ほどの小国ながら、“ヒマラヤの麓の仏教国”という秘境めいた響き、あるいは“世界一幸せな国”というコピーは好奇心をくすぐる。そうして人々を引き寄せる観光が、この国の主要産業となっている。
そのブータンが2022年9月、コロナ明けの再開国にあたり、国のリブランディングを行った。ただ外向きにブータンをよく見せるようなものではない。国の未来を担う、国家プロジェクトだ。
手掛けたのは、英国のブランディングエージェンシー「MMBP & Associates」。ライフスタイル誌「MONOCLE」のクリエイティブスタジオ出身のJulien Beaupré Ste-MarieとHank Parkが2017年に共同創業。エアカナダやレクサスなど大型案件の実績と、MMBPとして韓国エンタメ大手「CJ ENM」の刷新が注目され、「人づてにブータンの話が舞い込んできた」という。
再開国から始まる新しいブータン
ブータンのリブランディングの目的は2つ。ひとつは、再開国に伴う観光税(持続的国土開発費)の増額をフォローするため、もうひとつは、国民に未来を示すためだ。世界でオーバーツーリズムが叫ばれる前から「High Value Low Volume(高価値&少量)」という方針を貫いてきたブータンは、1991年に一人1日あたり65ドルという観光税を導入。加えて、滞在中にガイドや宿泊などに所定の金額を使うというルールを設け、観光を財源として活用しながら、資源を守ってきた。
「今回、その観光税が約3倍の200ドルに引き上がりました。この意味を訪れる人に理解してもらう必要があります。また、観光業はこの国の第二の産業であり、あらゆる業界、多くの国民の生活にも関わるものでもある。経済、教育、公共サービス含め、全方位的に改革を押し進めていくことになるため、それを体現する“ブランド”が求められたのです」と、Julien Beaupré Ste-Marie(マネージングディレクター、以下ジュリアン)は語る。
再開国を機に、国のエンジンである観光を軸に、国が変革していく。それを国民に示すことこそが、もうひとつの目的だ。
「古く伝統的なこの国で、若者は『私たちの将来はどうなるのか? 寺で働くのか? 僧侶になるのか?』と不安視している。国として、特に彼らにビジョンを示したがっていました」と、Hank Park(アートディレクター、以下ハンク)は、補足する。