国内

2023.04.11

世界を極めたレーサーが挑む、電動バイクで地域活性化

井原慶子 カーレーサー、Future代表取締役CEO

「デリバリーのための手軽な移動手段がない。なんとかできんかね?」。コロナ禍の愛知県春日井市の商店街の声に、世界一のカーレーサーが立ち上がった。地域経済振興と脱炭素社会を目指すモビリティスタートアップ・Futureの井原慶子だ。

井原はカーレースの最高峰・WEC世界耐久選手権の表彰台に立った世界初の女性だ。2020年、客足が遠のいた地元商店街にヒントを得て、電動バイク「GOGO!」のシェアサービスと地域密着型アプリの事業を立ち上げた。

使用する電動バイクは、レーサーとして培った車体効率性の追求や人間工学の知識を生かし、大幅な軽量化に成功。通常スクーターでも80〜100kgほどある重量を、約25kgに抑えた。

現在さまざまなモビリティシェアサービスが登場しているが、井原は「地域の人の役に立つこと」にこだわる。GOGO!の開発では、誰でも乗りやすいよう車体をまたがずに乗れる形態にしたほか、色みやデザインなども「シニアが乗ってもアクティブに見えるように」といった声を生かし、ユニバーサルなデザインに仕上げた。「地方の人にとって、移動手段は生活を支えるライフライン。『自分がおばあさんになったら、こんなふうに移動したいな』と思える乗り物をつくりたい」。

こうしてGOGO!の電動バイクは国内十数カ所に導入され、年内にも20地域ほどに増える見込みだ。バイクシェアとあわせ、地元商店の情報や限定クーポンの配布、飲食店予約機能を備えたアプリも提供する。地域通貨の使用も可能で、さらなる地域経済の活性化を目指す。

井原を支えるのは、大学在学中にカーレースに魅せられ、バイトをかけもちし4年間で1000万円をためてレーサーデビューした経験だ。「99人に『無理だよ』とバカにされても、真剣に聞いてくれる人が1人いればいい」。諦めない心で勝ち取った世界一の称号を胸に、経営者としても全速力で駆け抜ける。


いはら・けいこ◎カーレーサー、Future代表取締役CEO。法政大学在学中にカーレースに出合い、1999年にレースデビュー。2014年、女性レーサーとして世界で初めてWEC世界耐久選手権の表彰台に立つ。ルマンシリーズでの総合優勝等を経て、18年日産自動車の社外取締役に就任。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特任教授。

文=菊池友美 撮影=帆足宗洋

この記事は 「Forbes JAPAN 特集◎スモール・ジャイアンツ/日本発ディープテック50社」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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