カルチャーとアントレプレナーを掛け合わせた造語で、文化起業家を意味する。全国各地にうまく活用されずに眠っている文化資本を生かして、伝統産業に切り込み、新たな商品へと生まれ変わらせようとする若き起業家たちがいる。
京都を拠点にする大河内愛加は、そのひとりだ。「文化を纏う」をコンセプトにしたD2Cブランド「レナクナッタ」を展開する。使わ「れなくなった」生地や、以前より作ら「れなくなった」素材や技術を活用しているのがブランド名の由来だ。そんな彼女が、斜陽産業となった伝統工芸に新たな息吹をもたらした。
1200年もの歴史がある兵庫県豊岡市の伝統工芸「豊岡杞柳細工」の女性職人と手を組み、大河内がデザインした、柳のかごバッグ「Kiryu-zaiku Basket」を発表すると、大きな反響があった。
匠の技が生かされているものの、あまりメジャーではない伝統工芸と、どのように出会い「売れる工芸」へと導いたのだろうか。4つの課題に対する文化起業家のアプローチを探った。
日本人に愛されてきた「柳行李」 100年もたないかもしれない伝統
かごバッグと言えば、今では籐のアイテムが多く、国産のものは少ない。一方、柳で編まれたかごは、大正時代くらいまで「柳行李(やなぎごうり)」として着物を入れるなど、日本で愛用されてきた。丈夫で軽く、湿気の多い日本で、通気性もあり、虫食いから守るとされてきた。明治時代になると、行李鞄としてパリなど国内外の博覧会に出品され、世界に注目された。柳行李のルーツを辿ると、奈良時代に作られた「但馬国産柳箱」が東大寺・正倉院に保存されるなど、かつてはごく一部の上層階級の人たちだけが使っていた高級品だった。長年皇室に愛用されてきたのもその所以である。だが、戦後には安い輸入品やプラスチックの買い物かごが普及し、広く使われなくなってしまった。
今回レナクナッタが手がけた豊岡杞柳細工のかごバッグは、艶感があり、しなやかで丈夫な「柳」が均一に編み込まれ、丸みを帯びたフォルムに。持ち手や内側、留め具にはイタリアンレザーが使われ、高級感がある印象だ。それでいて軽いのが特徴。使いやすいように、マチが確保され、500mlのペットボトルも入る仕様になっている。
大河内も「編みのきめ細やかさや、染色したコリヤナギの色味が絶妙。ちょっと渋く、くすみ茶色、上品で綺麗だと思いました」と、一目惚れした。同時に、現代ではその魅力があまりに知られておらず、危機に瀕している状況に驚いた。
「Kiryu-zaiku Basket」の柳を編むのは、豊岡杞柳細工職人の山本香織だ。「まさに消えてしまいそうで、今後100年はもたないかもしれない」と危惧している。