担い手不足の解消につなげていくため、地域の金融機関が、失われかけている地場の資産を蘇らせようと、カルチャープレナーと職人を引き合わせたことの意義は大きい。
大河内は「一発の打ち上げ花火として終わらないように」、レナクナッタの定番コレクションに追加。今回は山本一人が制作するため、1カ月に10個しか作ることができず、数に限りがある。ただ、かごバッグを受注する機会を毎年設けることで、職人にとって安定した仕事のひとつになり得る。さらに文化起業家である大河内は、先を見据える。
「私たちが発信することで、若い人にも響き、豊岡杞柳細工に携わりたいという人が山本さんの弟子になり、未来に繋がっていったらいいなと思います」
課題2. 買い手の減少と価格設定
工芸界に共通する課題だが、豊岡杞柳細工は作り手が少ないだけでなく、買い手も減少し、価格が落ち込んでいた。技能を磨くことが重んじられる工芸界では、高付加価値商品を生み出し、売り出すことに長けている訳ではない。だからこそ、価格が落ち込んだ時に適切な打開策を見つけ出すことが難しい。レナクナッタの「Kiryu-zaiku Basket」の価格は、66000円。職人の手仕事の技術と工程を考えると妥当のように感じるが、豊岡杞柳細工のバッグは3万円台が主流。国指定の伝統工芸士による作品でさえ、4万円を超えるものは少ないという。
大河内は「市場に出ているものの倍の値段であり、かご部分の技術はほとんど同様です。適正な価格だと判断していただくため、デザインはシンプルにしつつ洗練された印象となるよう工夫しました」と明かす。それが次の課題へのアプローチにも繋がるデザインの力だ。
課題3. デザイン力
山本によると、柳のバッグを手掛ける際には、かご編みだけでなく、通常は取手なども職人自身で取り付けているという。だが、ずっとこんな課題を感じていた。「取手をつけることに関して、私たちはプロではありません。自分でやると、布などを使うことになり手芸みたいになってしまうのはずっと悩みでした」そこで大河内は、より高級感を出すため取手や留め具、内側にイタリアンレザー(本革)を使用。茶色と黒、白の3パターンから選ぶことができる。これも豊岡市内の別のかばん事業者に制作を依頼した。繋ぎ部分の金具は、かご本体と取手のレザーの間にさりげなく見える。
「これまで市場に出ていた杞柳細工のバッグにはほとんど使われたことのないゴールドの金具がいいアクセントになりました。また、イタリアンレザーの仕入れが豊富な豊岡のメーカーと協働し、レザー部分に関しても妥協なく作ることができました」と語る。
また、余計な装飾は削ぎ落とし、豊岡杞柳細工のかごの部分を際立たせるようなデザインにこだわった。
大河内は西陣織を使った商品もこれまで手がけていたことから、当初はかごバッグの内側に西陣織を使うという提案もあったが、「情報がパンパンになってしまうので」と却下。「杞柳細工だけにフォーカスし、イタリアンレザーはその引き立て役」だと解説する。
コラボ商品の仕上がりに、山本は「細部をプロに頼むことで、こんなに素敵なバッグができることに感激しました」と語る。