日米関係筋によれば、バイデン氏の長崎訪問には、エマニュエル駐日米国大使らが意欲的で、被爆地の広島を地元とする岸田文雄首相も強い期待感を示していたという。エマニュエル氏はオバマ政権で大統領首席補佐官を務めている。当時、副大統領を務めていたバイデン氏の長崎訪問を実現し、オバマ氏が唱えた「核なき世界」の理念を改めてうたい上げたかったのかもしれない。
これに対し、サリバン大統領補佐官(国土安全保障)らが慎重な姿勢を示していたようだ。詳細な背景は不明だが、バイデン氏の長崎訪問が、米国内や中ロ両国などに誤ったメッセージとなることを懸念したのかもしれない。
そもそも、バイデン政権は昨年10月、核政策の指針とする「核戦略見直し」(NPR)を公表した。バイデン大統領は就任前まで、核使用を核攻撃への抑止と報復のためだけに限る「唯一目的化」を唱えていた。NPR作成を巡り、「唯一目的化」や「核の先制不使用」が盛り込まれるかどうか、各国は注視したが、結局採用されなかった。
ウクライナに侵攻したロシアが核兵器の使用をちらつかせ、中国は2035年までに保有する核弾頭を1500発まで増やす可能性がある。北朝鮮は7回目の核実験を行う気配を示すと同時に、「戦術核の訓練を実施した」という脅迫めいた発表を繰り返している。そんな状況下で、「唯一目的化」や「核の先制不使用」を宣言すれば、同盟国が米国の「核の傘」に不信感を持つと同時に、中朝ロなどの権威主義陣営が勢いづくという懸念があったとみられる。