経済・社会

2023.04.11 17:00

岸田首相が熱望した広島サミット、厳しい世界の現実を知る機会に

Photo by Kevin Dietsch/Getty Images

4月26日からは、韓国の尹錫悦大統領が米国を国賓訪問する。米国は尹氏を最大限にもてなすと同時に、韓国内で燃えさかっている「独自核武装論」や「米戦術核の朝鮮半島再配備論」を完全に鎮火させたい思惑を持っている。「長崎訪問の断念」にも、そのような微妙な状況のなか、できる限り、「バイデン政権は核抑止に消極的だ」と思われたくない思惑が働いたのだろう。
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一方、韓国で燃え上がる「独自核武装論」などを抑え込むため、米国は「核の傘」を含む拡大抑止の協議を強化することで、韓国と合意した。一部のメディアは、日米韓で新たな拡大抑止協議体を創設する検討が進んでいると報じている。日本と韓国はそれぞれ、米国との間で協議体を持っている。それを3カ国でやるというのだが、何となく米国が日韓に配慮したようなニュアンスも浮かぶ。

だが、関係者によれば、事はそれほど簡単ではないようだ。そもそも、米国は昨年10月に発表したNPRのなかで、インド太平洋地域での核抑止について、日韓豪などの同盟国と協力しながら拡大抑止協議を強化すると説明していた。この文脈からすれば、日米韓や日米韓豪の拡大抑止協議体が発足しても、何の違和感もない。ただ、重要なのは枠組みでなく、何を協議するかということだ。

米国は過去の協議で、戦略原潜の内部や核ミサイルのサイロなどを日韓に見せたり、図上演習で核兵器による報復攻撃の意思を示したりしてきた。しかし、米国が核攻撃の具体的な目標や攻撃手段、条件などを示したことは一度もない。米国は、北大西洋条約機構(NATO)の核企画グループで何を話し合っているのかも、明らかにしていない。そもそも、日米韓協議体に向けてどのような話をするのかという議論は全く進んでいないようだ。
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こんな状態で、もし仮に広島サミットで「日米韓の拡大抑止協議体発足で合意」となっても、同盟関係が好きなバイデン政権のリップサービスに終わるだろう。

核抑止か核廃絶かという議論はともかく、核問題を巡る米国の従来の姿勢に何の変化もないということだけは間違いのない事実のようだ。

岸田文雄首相は念願だった広島サミットの場で、各国首脳を原爆被害を記憶する様々な現場に案内したいのだろう。国際社会の関心を呼び起こすこと自体、評価されるべきだが、このままでは岸田氏の自己満足で終わってしまう可能性が極めて高いだろう。

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文=牧野愛博

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