アジア

2023.04.12

韓国を震撼させた高校生への麻薬入り飲料の試飲事件

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昨年10月、韓国ソウルの梨泰院(イテウォン)で、ハロウィンを楽しんでいた若者たちが将棋倒しとなって150人以上が圧死した衝撃的な事件があった。当時、囁かれていたのは、警察は現地で交通や通行の管理より、麻薬や性犯罪の取り締まりなどの治安業務により多くの人員が配置していたという指摘だった。

梨泰院は、もともと米軍基地が近くにあり、外国人の往来も多く、ソウル市内のなかでも異国の雰囲気がある場所であった。少し怪しげなクラブなどがあったり、韓国では珍しいゲイバーなども存在したりしていた。

しかし、2018年に米軍基地が他の場所へ移転し、その後は梨泰院の街も廃れると思われていた。しかし、意外にも若者たちが集まりはじめ、裏通りの坂道にできたカフェなどが流行り出し、「キョンリダン(経理団)ギル」などの名称で呼ばれるようになった。

韓国では「○○○ギル(道)」というのは、流行りの場所を指す場合が多い。そして、大ヒットを記録した「梨泰院クラス」の舞台ともなり、ロケ場所でもある店を中心に多くの人々が訪れる韓流ドラマの聖地となった。

余談だが、「キョンリダン(経理団)」というのは、基地の国軍財政管理団の旧名称に由来している。この地域は、米軍基地に近かったため開発制限区域になっており、住宅街だったが、基地の移転により急速にレストランや居酒屋などの商業施設ができたのだ。

ソウル市内ではハロウィンのイベントは、若者が集まるいくつかの場所で行われていたが、いちばん殷賑を極めていたのが梨泰院であった。

2022年5月に新しく就任した尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、その年の10月から「麻薬との戦争」を掲げていたため、人々が多く集まる梨泰院には、雑踏事故当時、麻薬取締班が多く配置されていたのだ。

大学受験の親子の弱みに付け込んで

韓国に住んでいると、やはり日本のように治安はいいほうで、麻薬などは一般人とは無縁のものという感じがある。たまに芸能人など麻薬取締法違反で捕まる人間はいるが、それもそれほど多くはない。

しかし、今回、韓国を震撼させる麻薬に関する事件が起きた。

ソウルの有名予備校や塾が立ち並ぶテチ洞という地区で、高校生たちに麻薬入りの飲料を飲ませようとした「4人組」の犯人が逮捕されたのだ。現在、彼らの背後に隠れた組織があると見て、警察は捜査中である。

4人組は、「メガADHD」というラベルのついた麻薬入り飲料を「記憶力や集中力の強化に役立つ」と騙り、高校生たちに試飲させようとした。彼らに飲料を渡し、アンケート用紙に自宅の電話番号などを書かせ、親たちに脅迫電話をかけもした。

大学受験に必死となる韓国の親と子どもたちは、記憶力に役立つとか集中力にいいと言われれば、それがどんなに高額でも手に入れようとする。いまの時代、いい大学に行くことだけが人生を変えられるわけではないとわかっていても、やはり大学受験に必死となる親子はたくさんいる。

そんな弱みに付け込んで、純真な高校生たちを相手に、「記憶力増進や集中力強化」を謳って、麻薬に溺れさせようとするという犯罪は、恐怖以外のなにものでもない。
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文=アン・ヨンヒ

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