しかし17歳のエリーは、かつて家族を捨てて「恋人」との生活を選んだチャーリーへの憎悪を隠さない。それでもなんとかしてエリーとの関係を修復したいと願うチャーリーは、自分の全財産を与える代わりに、彼女にあることをするようにと依願する。
一方、看護師のリズは、再び彼の部屋で出くわした宣教師のトーマスに「彼に近づかないで」と厳しい言葉を投げつける。実はチャーリーの「恋人」とはリズの「兄」で、トーマスが勧誘する宗教に関わっていたのだが、それが原因で非業の死を遂げていたのだった。
前述のように、舞台劇が元になっているため、物語はほとんどチャーリーが引きこもる部屋で展開していく。脚本も舞台と同じサミュエル・D・ハンターが担当しており、濃密な密室劇が続いていく。そのなかでチャーリーの「恋人」や娘エリーの苦境、そしてリズやトーマスなど登場人物のそれぞれの事情が明らかになっていく。
そして、その中心にいるのが体重272キロの人物だけに、存在感は半端ない。一見、コメディとなってもおかしくない設定なのだが、監督のダーレン・アロノフスキーは、チャーリーを中心に登場人物たちの心の襞を丹念に解き明かし、深い感動を呼び起こすヒューマンドラマに仕上げている。
予備知識もなく舞台劇を観て、すぐに映画化権の確保に動いたというアロノフスキー監督は次のように語っている。
「観賞中に胸を痛めたり笑ったりしながら、それぞれのキャラクターが見出していく勇気や寛大さにインスパイアされた。この作品が取り組んでいた問題は、ぼく自身が探求したい問題、つまり観客がその立場になることをけっして想像できないようなキャラクターの内面に、いかにして連れていくのかということだった」
その意味では、映像で観客をこの密室の会話劇に引き込むことに、アロノフスキー監督は立派に成功していると言ってもいいかもしれない。