実は日本も食糧自給率は37パーセント(2020年)で、先進国の中でも最低ランクに位置しており、食料問題は決して対岸の火事ではない。
筆者も海外に出かけるたびに、世界の食糧問題への危機感と、対照的な日本の危機意識の低さを同時に感じていた。
そんな食糧問題の課題解決に強い危機感を持ち、世界で廃棄されている食べ物の有効活用に取り組む起業家がいる。Sustainable Food Asia(サステナブルフードアジア)代表の海野慧(うみの・さとし)だ。彼は「ジャックフルーツ」という果物を用いた持続可能な食物の開発や提供に取り組んでいる。
ジャックフルーツとはどんな食べ物か?
ジャックフルーツは、南アジアが原産地。日本ではあまり知られていないが、アジアや中南米、アフリカなど、赤道に近い地域で幅広く大量に採れる果物で、特にインドネシアやマレーシアでは人気があり、よく食べられている。熟した果実は20センチメートルほどの卵形で大きく、歯応えは柔らかくミルキー。味は甘く、バナナやパイナップルに近いフレーバーが感じられる。種子もローストするとナッツのような味わいがある。
また、未熟な実は加熱調理をすると、弾力があり肉のようなジューシーな食感になる。そのため、以前からビーガンや菜食の人たちの間では人気が高かった。
筆者もサステナブルフードアジアの海野が9月に開催した試食会に参加したが、実際に食べてみたジャックフルーツは、フルーツミートガパオとフルーツミートリエットという料理に使われていた。どちらの料理でもジャックフルーツは肉のような味付けがされており、ジャックフルーツを使っていると言われなければ肉と勘違いしてしまいそうな味わいと食感だった。
日本では2020年にメキシコからの輸入が解禁されたが、まだわずかな量しか流通しておらず、生だと1房が1万円ほど、缶詰加工されたものだと300円ほどでECサイトなどで購入できる。
まだまだ日本では知名度も低いジャックフルーツだが、この果物に注目した理由を海野は次のように語る。
「食糧問題を解決するにあたって、私たちが大切にしている要素が3つあります。1つはサステナブル(持続可能性)であること、次にリジェネラティブ(環境再生)であること。そして、最後の1つはアフォーダブル(手が届く範囲)であることです。つまり、稀少性の高い高級品ではなく、購入しやすいものであるべきであるということです」
一般的に作物を育てる場合、大量に資本を投資して大規模栽培を行うが、それだと結果的に土壌を枯らしてしまい環境汚染につながることがある。ジャックフルーツは広い地域で育てられ、収量が多く、しかも手をかけずとも自然に大量繁殖するので、そういったリスクが少ない。
その意味で、ジャックフルーツは広く世界に供給できるアイテムとしての可能性が高いというわけだ。さらに海野は、ジャックフルーツを「一時的な『流行りもの』としてではなく、長く愛される食べ物として定着させたい」と言う。
「アボカドのように、食卓に欠かせない定番の食材となることができれば、食糧問題を解決するうえでの大きな一歩となると信じています」
そのためには、まず知名度を上げることが必要だと海野たちは考えている。食品メーカーや飲食事業者と協力し、食材の研究や商品開発によってSDGsやESGに貢献する事業を立ち上げる支援をしている。また、東南アジアのフードテックスタートアップと日系企業のアライアンスを支援し、業務提携の支援まで行っている。