CEOs

2023.04.08

日本に最も足りないのはCEOだ。世界レベルの経営者を生むのに必要なものとは?

写真右:丸山泰史 エゴンゼンダー東京オフィス代表 写真左:植野大輔

植野:修羅場経験があるか否か。

丸山:仰る通りです。優れた経営者の方々は、皆さんそうした経験をされています。そして、それを学びに変えている。「しくじり先生」というテレビ番組がありますが、まさにあんなイメージです。自分の限界を知ると、セルフアウェアネスが高まる。すると、周りを生かすにはどうすればいいかが自然と発想できるようになる。これは、健全な後継者づくりのためにも必須の要素だと思います。

我々のもつグローバルの経営者評価データからは、優れたCEOになるために踏んでおくといい3つの経験も見えてきました。まず、海外経験。次に子会社の社長経験、あるいはPL(損益計算書)責任を担った経験。最後が、全社に横串を刺すファンクションの経験。これら「三種の神器」を踏んでくださいと言っています。海外企業は若手だろうが、どんどんPLポジションを任せています。一方で日本は相当意識しないと、こういう経験が積めない構造に見えます。

植野:セールスのノルマとはまた違うんですね、PLは。

丸山:組織全体を担当し、採用責任ももちますし、人事は全部見る。BS(賃貸対照表)までは見られないかもしれないですが、PLは全部見る。複雑なマネジメントだとは思いますが、そうした経験が早めにできるかどうかで差が出てきます。

海外経験も重要です。今年のワールドカップで日本代表が躍進した背景に海外クラブ所属選手の増加がありますよね。ビジネスでも同じく、もっと多くの人に良質な海外経験を積んで欲しいです。なお、過去3年に就任した日本の大企業のCEOの経歴を分析したところ、半数近くが海外経験をもっていることもわかっています。

「人」と「組織」を考えたかった

植野:丸山さんは4年前、まだ30代のとき世界五大エグゼクティブサーチファームであるエゴンゼンダー(※3)東京オフィスの代表に就任しました。

丸山:36歳で代表になったので責任が重かったですね。まさに、修羅場経験をさせてもらっている感じです。

もともとコンピュータサイエンスの研究者になろうとしていたのですが、あの世界には天才がいっぱいいて勝てないし、人と関わることが大好きな自分には向いていないなと思いました。そのとき、ルイス・ガースナー(※4)の『巨象も踊る』を読んで人生が変わりました。戦略コンサルへの転向を決め、彼の出身であるマッキンゼーへ行こう、と。

植野:マッキンゼーに新卒で入社を。

丸山:2005年から8年ほどいて、その間に海外駐在と留学をさせてもらい、仕事も充実していたのですが、自分のパッションは「人」のところにあると気づいたんです。当時、エゴンゼンダーにいた先輩が「コンサルタントの半分くらいが戦略ファーム出身で、人に関心のあるメンバーが集まっている」と声をかけてくれて。転職したら、「人」と「組織」について、自分と似た想いをもつ人が沢山いました。スイスの企業ですが、「人を大事にする」とか、「人の可能性に懸ける」といった日本企業に通じるカルチャーをDNAにもっています。

※3 エゴンゼンダー:1964年にスイス・チューリッヒで創業、グローバルに展開する経営コンサルティングとエグゼクティブサーチの企業。企業統治、社長後継計画、社内幹部育成領域でも専門性と長年の蓄積をもつ。東京オフィスは1972年に開設され、今年50周年を迎えた。

※4 ルイス・ガースナー1942年、米ニューヨーク州生まれ。アメリカン・エキスプレス会長兼CEO、RJRナビスコ会長兼CEOを経て、93年にIBM初となる外部招へいの会長兼CEOに就任。インターネット時代に適合したネットワーク・コンピューティング、e-ビジネスを提唱。メインフレーム事業の不振で巨額の赤字に苦しんでいた同社を再建した。その際の具体的な行動が、著書『巨象も踊る』(2002年)にまとめられている。2003~08年、カーライル・グループ会長。
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文=神吉弘邦 写真=有高唯之

この記事は 「Forbes JAPAN No.102 2023年2月号(2022/12/23発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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