食&酒

2023.04.08 17:00

いちばん大事な花|島谷能成×小山薫堂スペシャル対談(後編)

放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」に、東宝代表取締役会長の島谷能成さんが訪れました。スペシャル対談第7回(後編)。

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島谷能成(以下、島谷):薫堂さんが脚本を書かれた映画『湯道』が2月23日に公開されますね。すごいなと思うのは、薫堂さんは「茶が道になったように、日本特有の入浴文化も道になるかもしれない」と直感し、2015年に「湯道」なるものを拓くじゃないですか。遊びとしても企画としても十分面白いけど、それをさらに物語に落とし込む想像力と腕力に感心しました。

小山薫堂(以下、小山):ありがとうございます。僕は伊丹映画が本当に好きで、『湯道』も同様のウェルメイドな作品を目指しつつ、ミニシアター10館程度でスタートできたら上等だと思っていたんです。だから東宝がなぜこの地味なテーマに乗ってくださったのか、不思議で(笑)。

島谷:まずはグッドストーリーですね。潰つぶれかかった銭湯を舞台に、犬猿の仲だった兄弟がやがて協力しあって……という王道のパターンがあり、独特の温かさがある。ハートウォーミングな作品ってたくさんあるけれど、この感じは探しても見つからない。ひとつ思い当たるとしたら、ニール・サイモン(脚本)だなと。例えば彼の書いた『グッバイガール』は、ひょんなことから一緒に暮らし始めた男女が、反目し合っていたのに、次第に愛し合う話。ブロードウェイという偏屈で特異な世界に生きるふたりの会話が軽妙だし、エンディングが、なんというか“大人の”温かさなんです。

小山:最上の褒め言葉です。ただ、『湯道』は宣伝が非常に難しいですよね。

島谷:確かにキーワードひとつでは押し出せない。温かい作品ではある。ただ、熱くはない。ぬるくもない。ジワーッと伝わる、遠赤外線みたいな(笑)。

小山:(笑)、まさに。

島谷:実際のところ、「湯道」というのはどこまで浸透しているんですか?

小山:湯道部をつくってくれた女子大はあります。その学生さんが学生ビジネスコンテストで「湯道を軸に寂れた温泉街を活性化させる」というプランを発表し、準優勝したんですよ。あと、ヤンマーマルシェという会社では、社長自ら旗振り役となって湯道部をつくり、社員が温泉に行く際には金銭的な補助をしてくれるそうです。

島谷:それは楽しい会社ですね。

小山:島谷さんが『湯道』の宣伝部長だったらどういう宣伝をしますか。宣伝の極意というものがあれば、教えてください。

島谷:難問ですね。あえて言わせてもらえれば、枝葉を切って、いちばん大事な花だけ捕まえること。その花は絶対にある。それを見つけるのが楽しいという宣伝マンなら、必ず何か見つけられるはずです。
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写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN 特集◎スモール・ジャイアンツ/日本発ディープテック50社」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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