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食&酒

2023.04.08 17:00

いちばん大事な花|島谷能成×小山薫堂スペシャル対談(後編)

銭湯と映画館の共通点は?

小山:東宝は映画、演劇以外に不動産事業もあります。島谷さんは会長としてそれらをどのように捉えていらっしゃいますか。

島谷:創業者の小林一三は、大阪で阪急電鉄を立ち上げ、宝塚歌劇団を創設し、1932年に東宝の前身「東京宝塚劇場」を設立した。さらに全国に「百の映画館」を展開しようと、不動産を買って映画館を建てたわけです。映画は映画館で花開き、芝居は劇場で花開く。東宝が扱う不動産というのは、つまり花畑。僕は口癖みたいに言うんです。「我々が扱っているのは米や麦のような生きるのに必要なものではない。花という、なくても困らないものだ」と。

小山:だけど、あったら豊かになる。

島谷:そう。花は繊細だから大切に育てなければならない。花が咲いたら種ができる。DNA、つまり著作権が残る。種を海外にもっていき、そこで咲かせることもできる。『ゴジラ』しかり『ポケモン』しかり。

小山:「なくてもいいが、あったら豊か」というのは、まさしく銭湯にも通じますね。銭湯と映画館の共通点は、同じ時間を知らない誰かと共有することだと思う。ケからハレに身を置き、違う世界に迷い込んだかのように没入し、ほかの人の笑い声や涙に共鳴する。そういう誰だか知らない人たちと同じ場で過ごすことの尊さって、いまの時代だからこそ大事ではないかと思います。

島谷:こんな話を聞きました。アメリカの古い映画館チェーンを継いだ人が、創業者の祖父に「いまの人は映画館には行かない。映画はみんなスマホで見ているよ」と言った。すると祖父はこう返した。「お前、この街の住人を見てごらん。彼らは立派な台所のある家に住んでいるが、レストランにも行くじゃないか。そういうことだよ」。

小山:レストランにも銭湯にも、自宅の台所や風呂では得られない幸福感がある。

島谷:そして映画館にもある。『湯道』はそのことを気づかせてくれる映画になるかもしれないですね。

今月の一皿

島谷氏曰く「東宝の食堂」という銀座「泰明庵」。なかでも一押しの「せりカレーそば」は根っこ入りで香りが高い。

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Blank
都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。

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小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わり、2025年大阪・関西万博ではテーマ事業プロデューサーを務める。

島谷能成◎1952年、奈良県生まれ。東宝代表取締役会長。京都大学卒業後、東宝に入社。2011年、社長に就任。宣伝部時代に担当した主な作品は『復活の日』『連合艦隊』『ひめゆりの塔』、映画調整部時代に『夜叉』『四十七人の刺客』『模倣犯』がある。

写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN 特集◎スモール・ジャイアンツ/日本発ディープテック50社」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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